5月27日号紙面:古代近東思想と現代科学を問う 『創世記1章の再発見』
聖書を忠実に読むことは意外に難しい。誰が読んでもすぐに分かるように書かれている、と思い込んでしまう。時代を超えて、その内容がにわかるところもある。一方で、地中海沿岸に数千年前に住んでいた、日本語を知らない人が書いたものだからこそ、時代と文化と言語のギャップを踏まえないと忠実に解釈できない場合も多い。
創世記1章をどう読むかについては、福音主義に立つ教会の中にも様々な意見がある。本書では古代近東に造詣が深いウォルトン氏(北米ホイートン大学教授)が、現代とは大幅に異なる古代近東の世界観を踏まえつつ、天地創造の記事を忠実に読み、解釈しようと試みている。
彼の主張は3つの点にまとめられる。まず、創世記1章は物質の存在しない宇宙に神が物質をもたらす過程ではなく、適切な機能が割り当てられていない世界に神が秩序を与えた過程を述べている。だからこそ、第2に、神は人のために宇宙に秩序を備え、そこに休息し、人と共に統治を始めた。宇宙を自らの神殿とされたのである。このようにして、どのような目的で天地に秩序が与えられたか、という問いかけに創世記1章は答えようとしているので、第3に、宇宙の物質的な起源については、理にかなったモデルであるならば、それが現代の科学的なモデルであろうとも自由に受け入れてよい。
旧約聖書の文化的文脈になじみのない読者には、本書は古代近東思想のよい入門書となるだろう。そして、これまでとは違った視点で聖書を読むきっかけになるだろう。もちろん、ウォルトン氏の主張は検討の余地がある。物質的起源と機能的起源が厳密に分離できるのか、そもそも物質とはいったいなにか、創世記1章は本当に神殿についてのテキストなのか、などである。
福音主義に立つ者たちによる活発な議論が本書を契機に始まることを願っている。(評・鎌野直人=関西聖書神学校校長)
『創世記1章の再発見古代の世界観で聖書を読む』
ジョン・H・ウォルトン著、原雅幸訳、関野祐二、中村佐知監修、いのちのことば社 A5判 2,376円税込
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