2018年09月30日号 01面

 地震、津波、原発事故、放射能汚染など深刻な災害が起こった東日本大震災から7年半が経過した福島県で、新たに今後の教会協力支援と宣教を考えようと県内外の教会、ネットワークが集い、「福島宣教ネットワーク」が立ち上がった。同ネットワーク設立のための会議が9月11日に福島県須賀川市の須賀川シオンの丘で開かれ、様々な教会、ネットワークの関係者が、震災後の経験や問題意識、現状を報告した。【高橋良知

 福島県では、原発や放射能、避難の捉え方など県民の中でも見解が分かれる。そのような状況下で、教会では様々な支援や協力関係を築いてきたが震災から7年が経過してから後の課題があった。「支援活動をいつまで続けるのか、足元の教会はどうするのか、様々な葛藤があった」と福島宣教ネットワーク発起人の一人住吉英治氏(同盟基督・勿来キリスト福音教会牧師)は言う。「せっかくの働きをそのままに止めるのか、撤退するのか。発展させるにも霊的な体力がいる。一つの教会は弱いが、互いに祈り、情報共有して励まし合える宣教ネットワークが福島だけでなく、日本全体でも起きてほしい」と話した。

 森章氏(いわき市、単立平キリスト福音教会牧師)は、震災後、教会堂が支援拠点となった経過を話し、「様々な国、神学を背景にする人が災害支援という具体的な目的で1つになった。あらゆる境界を超えてイエスの1つの体となることが可能だと知った」と述べた。

 自身が関わる世界的な宣教運動トランスフォーメーションについて、「政治、教育、経済、芸能などあらゆる領域について神の臨在が現れること」と紹介し、こう勧めた。「原発被災、パワハラ、自殺など、人間が人間である尊厳が大事にされていない政治、経済の腐敗がある。神の国の義を信じる教会に求められるのは、これらのことを通して主が何を語っているのかを求めること。教会はイエスを礼拝する思いで1つとなり、人々の切実な必要に耳を傾け応えたい。御国的な地域づくりに遣わされる宣教ネットワークの土台が築かれることを願います」

 大友幸一氏(宮城県、保守バプ・塩釜聖書バプテスト教会牧師)は、阪神淡路大震災後の宣教協力の反省をもとに、宮城宣教ネットワークを立ち上げた経緯を語った。「キリストにある1つの教会として一致して、被災者に関わる教会の情報交換の場をしてきました」

 震災で家と両親を失い、引きこもっていた男性が、クリスチャンの支援と関わりを通して、教会に行き洗礼を受けた証しを紹介。「自己中心の生き方を悔い改め、心の中心にイエス様を迎えた。これからは恩返ししていきたい」と語った。大友氏は「クリスチャンしかできない究極のボランティア活動は福音を伝えることである。福音が被災者の人生を変える。福音を伝えるためには信頼関

係が大事」と話した。 初代教会の宣教協力の例をあげて「私たちには負うべき地域がある。自分の教会だけ人が集まればいいのではない。弱っている教会があれば声かけして、交わり、励まし合いたい」と語った。

 三箇義生氏(郡山市、アッセンブリー・郡山グレースガーデンチャペル牧師)は「点」「線」「面」という観点から語った。「震災後、それまで関わることのなかったような教団教派の人々と関われた。だが震災から時間が経つほど、関わりが薄くなり残念に思っていた」と話した。

 ビリーグラハム伝道協会の協力による伝道集会「ホープ・フクシマwithウィル・グラハム」開催(2013)に関わり、「県全体の教会を意識するようになった」と言う。

「県の人口から計算すると、1教会あたり1万5千人となる。1つの教会では、すべての人に福音を届けることは到底できない。他の教会を意識しなかったことを悔い改めさせられました」

 線をつくる働きとして、県内教会の情報誌や、須賀川シオンの丘や福島リバイバル祈りの家などの拠点の活用を提案。面の働きの例として、「みちのくネットワーク」という若者の働きで教会未設置の地域のために知恵を出し合った取り組みを紹介。「自分だけでは生まれないアイデアが誰かと誰かが結びついて生まれる。宣教のイノベーションがネットワークから生み出される」と期待した。

 岸田誠一郎氏(福島市、ミッション東北・福島聖書教会牧師)は福島県キリスト教連絡会(FCC)放射能対策室について語った。「様々な事情で福島に住み続ける選択をする人もたくさんいる。住み続ける以上は寄り添って支援しないといけない。現状の放射能汚染については様々な見解がある。私たちは危険とする立場だが、生活する以上、何が危険で何が大丈夫か知恵をつけていく姿勢」と話した。

 場所ごとに放射線量がわかるホットスポットファインダーの映像データを紹介。線量が低い住宅でも、雨樋の下などで線量が高い状況を示した。食品計測ほか、学習会、視察案内など啓発活動もしている。

  「私たちは見捨てられた」と語る被災者の言葉に衝撃を受けた経験を語り、イザヤ49章15節と詩篇46篇1〜3節を引用して、「目の前の矛盾の解決は簡単ではない。しかし、それでおしまいかというと違う。人間が忘れても神は忘れない。その1つ先の未来の希望を持ってやっていければと思う」と述べた。

 最後にFCC代表の船田肖二氏(白河市、日本イエス・白河栄光教会牧師)が挨拶。「須賀川シオンの丘は、放送伝道や神学校に用いられた場所。紆余曲折を経て日本イエスに託されたが教会協力に用いられ感謝している。FCCは放送伝道の協力会をベースに始まった。福島宣教ネットワークと顔ぶれが違うかもしれないが事が起これば進んで協力できるようにしたい」と語った。

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 今後同ネットワークでは、宣教を話し合う会議のほか交わりを重視した会合なども構想している。