10月07日号紙面:「霊肉二元論」こえた本来の希望 『驚くべき希望 天国、復活、教会の使命を再考する』
N・T・ライトの代表作の一つでありライト神学の心髄ともいえる本書が、中村佐知氏の秀逸な翻訳と、ライトの下で学ばれた山口希生氏の分かりやすい「解説」ガイドにより日本の読者に届けられたことに感謝したい。
従来の一般的クリスチャン理解では、死後に魂が「天国に行くこと」が最終的希望であり、聖書の中心的メッセージと受け取られてきた。ライトによれば、それは曲解であり、本来の聖書の使信であるというよりは、中世以来、キリスト教に忍び込んできたプラトン主義的二元論の影響による産物である。すなわち、霊は善、肉は悪であり、見えない光の世界に対して見える物質界は価値の劣る影でしかないとの思想である。それに毒されるとクリスチャンの希望はともかく早く物質であるこの世、また、体から脱却して魂が「天国」に行くことでしかなくなってしまう。
死後に「天国に行く」あるいは「地獄に行く」という伝統的図式は、本来のキリスト教の希望を深刻に歪(ゆが)め矮(わい)小化しているとライトは指摘し、「“死後のいのち”の後のいのち」を約束する「復活」こそ、クリスチャンの究極的希望であると訴える。キリストが十字架上で犯罪人の一人に約束した「パラダイス」、また、パウロがピリピ書1章で述べている「世を去ってキリストとともにいる」状態は、やがて被造世界全体が贖われ回復した新天新地において体の復活にあずかるまでの、いわば中間的な安息地点であると解する。
キリスト自身の先立つ復活により保障された「体のよみがえり」を強調することの意味は、ひとつには被造世界が良いものであることの再肯定であり、同時に、現在のいのちと後のいのちとの間にある連続性に目を向けることの重要性であろう。クリスチャンは、やがて被造物が更新されることを見据えつつ、「自分たちの労苦が主にあって無駄でない」ことに確信をもって今この世界を神とともに治め、管理し、「神のかたち」を体現していくべきものであるとのライトの渾(こん)身のメッセージを真摯に受け止めたい。 (評・丸山悟司=日本バプテスト教会連合御園バプテスト教会牧師)
N.T.ライト著 中村佐知訳 あめんどう 3,132 円税込 四六判
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