2018年10月21日号 06面

 日本キリスト教連合会は9月7日、定例講演会を東京・新宿区西早稲田の日本キリスト教会館で開催。戒能信生氏(日基教団・千代田教会牧師、日本クリスチャンアカデミー関東活動センター委員長)が「平成天皇の生前退位と大嘗祭」と題して講演した。
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戒能氏は1990年の昭和天皇から平成天皇への代替わりの際、日本キリスト教協議会(NCC)の下に設置されたNCC大嘗祭問題署名運動センターの主な企画、編集を任された経験を持つ。
最初に、「時間と空間を支配する天皇制は何処に?」のテーマで話した。「古代の王や権力者は神に代わり、この世界の空間と時間を支配する権力を保持したが、グーグルマップによって宇宙から世界を眺められる21世紀の現在、高い塔は必ずしも王権や支配者の象徴ではない。時間は神が支配するものと考えられていたが、この国では生きている時代を支配者である天皇が神に代わって支配するという制度が編み出された。古代中国から導入された元号制だ。これは明治以降、大正、昭和、平成と日本の近代においても引き継がれた」
1979年に元号法制化が施行された際、「この国のキリスト教会は全体として元号を用いず、西暦のみを使用するようになった」点に触れた。「それまで元号を併用してきたところが多かったが、国家が元号を強制しようとした時、キリスト教会はほとんどすべて西暦を使用するようになった。この国の圧倒的多数が元号使用に統合されようとした時、キリスト教会は全体としてそれに抵抗した。これはこの国のキリスト教会の大きな転換期だったと言える」戒能
1990年大嘗祭署名運動についてはこう評価する。「NCC加盟の各教派・団体のみならず、カトリックや福音派の諸教会も含め、ほとんどの教会を結集した運動で、神道儀式である大嘗祭の国費使用、政教分離原則違反など憲法に抵触する可能性、天皇の政治利用に対する批判と懸念を内容とする署名運動を展開し、大嘗祭への批判と憂慮を公にした。その結果、19万に及ぶ署名が集められた。様々な印刷物が発行され、8月には大嘗祭反対の集会が全国各地で実施された。アジア各地から神学者を招いて国際的シンポジウムが開かれ、天皇制といかに対峙(たいじ)するかについての神学的議論が積み重ねられた。実際に大嘗祭が行われる時期に合わせ、抗議として100時間断食が呼びかけられ、のべ千800人が参加した」
このような成果を見ることができたのは、①靖国闘争と言われる運動と経験の積み重ねがあった、②キリスト者の多くが戦前戦中、神社参拝や神権天皇制に苦しめられた記憶と経験があった、③教会の戦争責任という事実に対し、諸教派がこの時期から向き合うようになっていた、の3点を挙げ、「神権天皇制の問題にとどまらず、戦後の象徴天皇制の問題についても日本の教会が考える機会になった」と言う。
だが、「象徴天皇制をどう評価し、その問題を指摘するかは依然として不十分だ。今、新しい代替わりを目前に控える私たちキリスト者は、改めてこの問題にどう対応するかが問われている」と指摘。「象徴天皇制への懸念や批判はしてきたが、現天皇が慰霊の旅を続けるなどの仕方で象徴天皇制のあり方を提示してきたことの意味をきちんと受け止めて来なかったのではないか。また、生前退位の意思表明は、神権天皇制の回帰ではなく、人間的な弱さをもった存在であることを明らかにした。それは極めて具体的な人間宣言と言える。現天皇から投げかけられた問いにどう応じるか、私たちキリスト者は問われている」
しかし、「象徴天皇制についての現天皇の理解が、今後もずっと代々引き継がれるかははなはだ疑問だ」とし、「近い将来、別の天皇が靖国神社に慰霊の旅をする可能性もありえる。天皇の個人的資質に依拠した議論に陥ってはならない」と注意を促した。