嵐の日本へ来たアメリカ女性

 1931年の満州事変を期して、日本は十五年戦争へと突き進む。33年ドイツではナチスが政権を取り、権力が人間の尊厳を抑圧する重い空気が蔓延する。1930年代は嵐の時代であった。

 美濃ミッション事件は、その嵐のただ中で起きた。児童生徒に神社参拝させることが当然視された当時の学校において、岐阜県大垣市で美濃ミッションの小学生らが、地元の神社や伊勢神宮への参拝を「偶像礼拝だから」と拒否した。その出来事が新聞で報じられると、市を挙げての排撃運動に発展し、児童らは退学、怒った暴徒らがミッション本部に押し寄せるなどの事態となり、ついに一時ミッションの看板を降ろさざるをえなくなった。

 この日本キリスト教史に残る弾圧の事実は、既刊『神社参拝拒否事件記録 復刻版』に詳しい。本書は、この弾圧事件直前の28年に米国から美濃ミッションに赴任し、後に2代目主管者となったエリザベス(ベティ)・フィウェルの足跡を中心に、創設者セデー・リー・ワイドナーの横顔や美濃ミッション設立、戦後の再興に至るまでのいきさつをまとめた記録。今年11月の創立100周年にあたって記念出版された。

 著者の石黒次夫氏はフィウェルから信仰に導かれ、献身して彼女の片腕となり、やがて第3代主管者となって使命を引き継いだ。フィウェルから親しく聞いたエピソードや、宣教師たちの手紙類や報道記事などの資料を駆使して書きつづった記事は、歴史の事実が、単なる記録ではなく、宣教師たちの人となり、生い立ちや経験、信仰の決断も含めて肉付けされ、時代の空気やそこに生きた信仰者の息づかいまでもが伝わってくる。それを、現在の第4代代表である子息のイサク氏が巧みに再構成して1冊にまとめた。

 その筆致からは、聖書の記述を真っ直ぐに信じ従ったキリスト者たちが、吠え猛る獅子のような迫害の嵐の中を生き抜いた、その信仰の遺産がどのように次の世代に引き継がれてきたのかが、生き生きと読み取れる。(編集部

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