ギオルギの再婚を盛大に祝う故郷の人々

本作の原題は“The Chair”。多くの政治家が、権力・地位の象徴=椅子を欲する権力社会の姿をユーモアと風刺味たっぷりに描いた寓話的作品。物語の本筋は、地位=椅子に執着する滑稽さを、政治家としてもジョージア国会副議長を務めた経験を持つシェンゲラヤ監督が、辛口のメッセージで苦笑を誘うアイディア満載のストーリー展開にあるのだが、挫折した主人公が、故郷の母親にいつでも帰っておいでと受け入れられ、故郷の人々も実家で再婚の結婚式を挙げる主人公を心から受け入れて喜ぶシークエンスがなんとも心を和ませる。都市化した生活の価値観、世知辛さに浸かり、故郷・家・家庭、喪失しつつある現代だが、その帰れる居場所がある幸福感を思い起こさせてくれる滋味豊かな温もりがうれしい。

政治家として大臣になった息子だが母親と
故郷の人々にはいつでも迎え入れる存在

中空から地上に舞い降りていく箱荷。たどり着いたのは「国内難民追い出し省」。大臣に就任したギオルギ(ニカ・タヴァゼ)が特別注文した椅子だった。ギオルギ大臣の椅子は、擬人化して省内と政治の世界を見つめていく。

新しい大臣の椅子を誉めそやす補佐官ダト(メラブ・ゲゲチコリ)。ギオルギも椅子の座り心地に満足げ。そこへ首相からTV電話が入る。難民を追い出すため早急に思い切った手を打てと厳しい命令だ。気が進まないまま力づくでの追い出しを指示し、避難民が住む地域に赴くと、案の定、激しい抵抗を受けた。その混乱の中で追い出しに抵抗していた美しい女性ドナラ(ケティ・アサティアニ)を助けようとしたギオルギは、機動隊員に殴られて反対にドナラに助けられ救急車で運ばれる。

ギオルギの帰省を心から喜ぶ母

妻に先立たれているギオルギは、ドナラに一目ぼれしてしまい居場所のない彼女を息子ニカ(ズカ・ダルジャニア)の家庭教師に雇い自宅に同居させる。だが、ニカも先妻の姉マグダ(ニネリ・チャンクヴェタゼ)もドナラに冷たく当たり、ドナラは諦めて去っていく。ギオルギがドナラの居場所を捜し始めると、補佐官ダトは要領よく彼女の居場所を調べ上げていた。ドナラに冷たい態度をとっていたニカは、ドナラが家に戻ると改心して彼女を受け入れた。

強硬な難民追い出しに、難民と付き合っている娘のアナ(ナタリア・ジュゲリ)は激怒している。旅人の客人は神さまからの使いと受け止めるジョージアの宗教文化とも相違する強硬策も一因で与党は選挙に惨敗。ギオルギは大臣をクビになった。故郷を訪ねると母親は「あなたの家はここよ」と優しく受け入れる言葉をギオルギに送る。ギオルギはドナラとの結婚式を故郷で挙げ、親戚知人らにも喜ばれ失意から幸福への機運に浸ることができた。その幸福感も束の間、使用人夫婦の裏切りで、首相の口利きで不正取得した自宅からの立ち退きを命じられた。激怒する義姉は激しく抵抗し、大騒動へと発展していく…。

ジョージアの風土、宗教
文化を滋味豊かに演出

大臣の椅子を擬人化して権力をつかみ取ろうとする政治家の姿を描いたり、省内スタッフがローラースケートを履いて業務についている演出で、仕事らしい仕事が無くても忙しそうに見せる皮肉を込めるなど辛口なユーモアを演出するエルダル・シェンゲラヤ監督。

一方で、アルメニアに次いで、世界で2番目にキリスト教を国教にした歴史を持つジョージア。共産主義国家時代の弾圧にあってもそのおおらかな宗教的生活文化を堅持してきた。世界最古のワイン発祥の地ともいわれるジョージア。旧約聖書のノアの箱舟物語にも記されているぶどう酒の産地としてのプライドとともに故郷と家族・家を愛する心の支えとして滋味豊かに描かれている。 【遠山清一】

監督:エルダル・シェンゲラヤ 2017年/ジョージア/99分/原題:The Chair 配給:クレストインターナショナル、ムヴィオラ 2018年12月15日(土)より岩波ホールほか全国順次ロードショー。
公式サイト http://www.moviola.jp/budoubatake/
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