著者の福田崇氏は愛子夫人と二人の娘とともにフィリピンの山奥に入り、東ボントクのカダクラン村の人々と共に暮らしながら聖書翻訳宣教に従事した。当時、この地域には第二次世界大戦中の日本軍による様々な苦しみの記憶と痛みを抱える人々がいた。そのような負の遺産を背負いながら、福田師家族は「楽観的に主の摂理を信頼する」をモットーとし、主と人々の前に誠実な働きを積み上げていく。そして、福音は現地のことばとなり、その神のことばは現地の人々を変えていった。

 しかし、変わったのは現地の人々だけではない。福田氏は「福音は何を変えたか」と問われたら、何よりもまず自分自身が変えられたと答えると記している。宣教は現地の人々を変えるだけでなく、宣教に携わる者たちをも変革し続ける神の活動であることを教えられる。しかし、それで終わりではない。フィリピンでの宣教活動は日本の教会を変える力をも秘めていると著者は語る。

 最終章において、著者はフィリピン宣教での経験から日本宣教の将来について語る。魚が水の中にいることに気が付かないように、日本の中だけに留まっていると気付かない事柄がある。福田師は日本の教会にはフィリピンの教会に感じる「濃さ」や「熱気」が感じられないという。その原因は信徒の自覚的な意識の差にあると分析している。日本の教会はいまだ教職中心、会堂中心、プログラム中心であるが、フィリピンの教会は信徒中心の教会へと脱皮しつつあると話す。フィリピンの教会は教会文化を変えることに成功しているが、日本の教会はそれに失敗しているという指摘である。「日本の教会文化は変わらなければならい」という福田師の指摘に私たちは真摯に耳を傾けなければならない。

 本書のあとがきに「神は自らの働き人を葬りたもうも、自らの働きを継続したもうなり」という句が引用されている。本書は著者から次世代への宣教のバトンでもある。すべてのキリスト者にお勧めしたい。

評・篠原基章=東京基督教大学神学部准教授

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