映画「人生、ただいま修行中」ーー看護学生たちの実地研修で奮闘するそれぞれの瞬間の素晴らしさ
来日していた10月9日に東京・聖路加国際病院で特別講義の講師を務めたニコラ・フィリベール監督が、パリ郊外に在る看護学校クロワ・サンシモン校の看護学生40人の150日間を追ったドキュメンタリー映画「人生、ただいま修行中」。看護学生たちの人種はさまざま、共通なのはフランス語を話せること。彼らが、講義と実習を経て病院での実地研修での戸惑いとチャレンジで垣間見られるそれぞれの瞬間の真摯な輝き。急速なデジタル技術の進展と高度な効率化が医療の世界にも浸透するなかで、“誰かの役に立つ存在になりたい”という願望をモチベーションに励む若者たち。その姿は、個人主義が強固な現代に在ってどのような領域にも一条の希望を指し示しているメッセージでもある。
逃げるからこそ捕らえられる
本作は、詩的なタイトルがつけられた3つのセクションで構成されている。セクション1「逃げるからこそ捕らえられる」は、看護学生たちが受ける講義と実習風景。ほとんど解説やテロップでの説明はないまま進展する。滅菌と消毒の違い、ダミーを使っての筋肉注射や人工呼吸、出産などロールプレイングでの授業は専門知識がなくても分かりやすい展開。
暗くなるからこそ見える
セクション2「暗くなるからこそ見える」は、学生たち各自が希望した診療科病棟での実地訓練。手術前の患者に準備の説明や不安はないかなど聞き患者との接し方を実践する。教室では出来た消毒ガーゼの交換や注射での採血、カテーテルの挿入など処置がスムーズにいかず戸惑う看護学生をフォローする先輩看護師や指導教師。その情況をある患者は不安気に、ある患者は悠然とリラックスしてみている。照れ隠ししたりしていても“その瞬間”をそれぞれに奮闘する看護学生たちの姿に魅入られる。
死ぬからこそ求める
語り 引き裂かれるからこそ
セクション3「死ぬからこそ求める…」では、実地研修を終えた後の看護学生たちが、それぞれ指導官と面談するシークエンスが、観る者に看護師を養育することの大切さを感じさせてくれる。実地訓練で複数の教官からそれぞれのアドバイスと指示があって戸惑ったとストレスを訴える男性。彼は最初の実習で患者が目の前で亡くなる臨死状況に接してショックを受けた。だが、その経験が看護職へのモチベーションを高めたという。それでも、「5週間の研修期間で5~6人の患者が亡くなったのはショックだった」と女性看護師はストレスだったことを率直に打ち明ける。そのほかにも、精神科病棟に行った男性、終末期医療チームで研修した女性、研修中に強盗に入られパソコンなど大事なものを盗まれた女性看護師など、実地訓練での感想・質問だけでなく進路やプライベートな問題までオープンに語り合い適切なアドバイスを送りいっしょに問題に取り組む指導官とのコミュニケーションが素晴らしい。
“Don’t Think Twice, It’s All Right”
多様な人種と多彩な個性の若者たちが、看護師をめざす姿がなんとも清々しい。戸惑いながらも判断を迫られる“その瞬間”の連続。いろいろなストレスを抱える状況の中で、指導官が「そもそも、なぜ看護師をめざしたの」との問いかけに、「誰かの役に立つ存在になりたいから」と応答する若い看護学生。彼の“他人の役に立ちたい”という願望が、すべての困難を乗り越えさせる。エンドロールに流れるボブ・ディランの楽曲“Don’t Think Twice, It’s All Right”(邦題:くよくよするなよ)のマインドと響き合って伝わってくる。 【遠山清一】
監督:ニコラ・フィリベール 2018年/フランス/フランス語/105分/原題:De chaque instant、英題:EACH and EVERY MOMENT 配給:ロングライド 2019年11月1日[金]より新宿武蔵野館ほか全国順次公開。
公式サイト http://longride.jp/tadaima/
公式Twitter https://twitter.com/longride_movie
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*AWARD*
第71回ロカルノ国際映画祭公式出品。第44回セザール賞最優秀ドキュメンタリー賞ノミネート。第24回リュミエール賞ドキュメンタリー部門ノミネート作品。