日本キリスト教史や教会史の分野で、精力的に出版活動を続けて来られた中村敏先生の次のテーマが中田重治と聞き、驚かされました。そして素朴に思いました。「今、なぜ中田重治なのか?」この著作を読み、中田重治の思想と生き様が今日の私たちに大切な問いかけを発していると気づかされました。

 言うまでもなく中田重治とは日本を代表する大伝道者で、日本ホーリネス教会の源流となった人物です。それまで主に知識人や中流階級のものだった福音を、中田は一般大衆へともたらしました。中田によって始められた働きによって福音は日本各地に広がり、アジアや北米・南米、南洋諸島にもその働きは拡大したそうです。すべての人に福音を届けるこころざしを、私たちは中田から引き継がなければなりません。

 同時に中田重治の中には、私たちの戒めとしなければならない点も多々あることを教えられました。中田のカリスマ的とも言える強力なリーダーシップが、聖書に基づく健全な教会形成の妨げとなったこと。中田の強い愛国心が、福音の教理と日本主義、皇道主義を自らの内で共存させる結果になってしまったこと。そして福音に生かされていたはずの中田の内に、聖書のことばをその時代の価値観や民族的感情によって恣意的に解釈してしまう傾向が見られたこと、などです。

 中田重治はその時代を超えられなかったということなのでしょうか。私たちの内にも同じような傾向と脆(もろ)さがあるのではないでしょうか。時代という枠組みの中にある私たちの信仰について強く考えさせられる一冊だと思わされました。

 中田重治の生きた時代と、私たちの生きている今の時代は別の時代かもしれません。しかし終末の時代を生かされているという意味では全く同じでしょう。聖書に基づいた健全な終末理解を私たちはどのようにして得ることができるでしょうか。中田重治とホーリネス教会の歴史が、私たちにそう問いかけているように思います。

評・若井和生=単立・飯能キリスト聖園教会牧師

中田重治とその時代−今日への継承・教訓・警告−

中村敏著、いのちのことば社 3,080税込、A5変型

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