映画「ちむぐりさ 菜の花の沖縄日記」ーーヤマトンチュウ菜の花さんの心と行動が沖縄とつながっていく
石川県から沖縄・那覇のフリースクール・珊瑚舎スコーレの高等部に転校した15歳の少女が、出身地元の北陸中日新聞に月1回ペースで3年間の高校生活を連載した「菜の花沖縄日記」(2015年4月~18年3月)。特段のテーマは決めずに沖縄の人たち(ウチナーンチュ)との触れ合い、小学部から中等・高等・夜間部(高齢者含む)まで年齢層の幅広いフリースクールでの授業や琉球文化との触れ合い、そして米軍基地があることの問題など、沖縄の歴史・文化から戦後と現在(いま)が、菜の花さんの見た情景と素直な言葉で描かれていく。明治政府の琉球処分(強制併合)によって琉球王国が滅び、戦後は米国統治を経て米軍基地の島として長く苦境のなかに置かれ続けている沖縄。その歴史に深くかかわってきた日本本土の人たち(ヤマトンチュウ)の一人として、菜の花さん自身気づかずに根付いていたウチナーンチュとヤマトンチュウの隔ての壁の姿が少しづつ浮き上がってくる。そのヤマトンチュウの自分に向き合いウチナーンチュとの対話を愉しみ聴き入る菜の花さん姿が、ヤマトンチュウが沖縄とつながっていくための一歩を気づかせてくれるドキュメンタリーだ。
「おじぃ、なぜ明るいの?」
菜の花さんが、北陸中日新聞に最初に掲載されたタイトルは「おじい、なぜ明るいの?」。米軍輸送機オスプイの沖縄配備とヘリパッド移設予定地の東村高江集落の歴史と移設反対運動を描いたドキュメンタリー映画「標的の村」(三上智恵監督、2013年公開)を中学3年のときに観てから、ぜひ行ってみたいと思っていた場所。沖縄の人たちは、菜の花さんを明るく迎えてくれて、楽しい時間を過ごすことができた。だが、その一方では、長く基地問題に反対し、米兵が絡む悲惨な事件が繰り返し起こるごとに抗議しても情況は一向に変わらない。それでもおじぃ(沖縄におじいさん)やおばぁたちは明るい。よく冗談を言ては菜の花さんを笑わせてくれる。なぜ、そんなに明るくいのだろうかという素直な疑問を書き綴った。
まず自分の目で見て知りたいという菜の花さんの想いは、辺野古新基地や県民大会、オスプレイや米軍ヘリコプターの墜落現場、米軍機から機体部品が落ちた幼稚園などにも足を運んでは話しを聞く。婦女子への暴行人寝講義する抗議集会にも参加し自分と同じくらいの被害者の思いに胸を痛める。基地問題や事件だけではない。三線(さんしん)や紅型(びんがた)など沖縄の芸能文化にも触れていく。ウチナーチュ(沖縄の人たち)に受け入れられていくヤマトンチュウ(本土の人たち)である自分とのつながりと隔ての壁は何なのか、菜の花さんが沖縄をとおして見つめる日本の姿が瑞々しく心に伝わってくる。
「ちむぐりさ」 肚から心が苦しい
それでも「なんくるないさー」
メインタイトルの「ちむぐりさ」(肝苦りさ)とは、沖縄の島言葉(ウチナーグチ)で、肚(はら)の底からの心の苦しみという意味か。筆者は、本編でも挿入歌として流れる沖縄の歌手・上間綾乃がフォークソング「悲しくてやりきれない」(作詞:サトウハチロー)のウチナーグチヴァージョンを2012年に発表したとき初めて「ちむぐりさ」ということばを知った。上間綾乃は、「悲しい」を直訳する言葉がウチナーグチにないため「ちむぐりさ」という言葉に訳したという。沖縄の歴史と基地の存在が絡む様々な問題がもたらす苦しみを、ウチナーンチュは立場を意見を異にしてもともに味わい続けている。上間綾乃はこの歌に、そうした沖縄の歴史と情況に在っても、「まくとぅ そーけーなんくるないさ」(人として正しい行いをしていれば自然とあるべきようになるものさ)という前向きな響き合いを感じてウチナーグチに訳したという。
菜の花さんは、フリースクールを卒業し故郷に帰った。だが、辺野古新基地建設埋め立ての賛否を問う県民投票実施が迫った時期に菜の花さんの姿は沖縄に在った。菜の花さんに投票権はない。それでも、県民の声が直接的に表わせる機会を一人でも多くの人に活かしてもらえるためにできることは何かと思いやってきた。その姿からは、人として正しいことをしていれば、大丈夫!「なんくるないさー」という前向きさが伝わってくる。 【遠山清一】
監督:平良いずみ 2020年/日本/106分/映倫:G/ 配給:太秦 2020年2月1日[土]より沖縄・桜坂劇場にて先行上映、3月28日[土]よりポレポレ東中野ほか全国順次公開。
公式サイト http://www.chimugurisa.net
公式Twitter https://twitter.com/chimugurisa
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*AWARD*(テレビドキュメンタリー)
2018年:第38回「地方の時代」映像祭グランプリ受賞。日本民間放送連盟賞報道番組部門優秀賞受賞。