【訃報】渡辺信夫氏逝去 カルヴァン『キリスト教綱要』翻訳 日本の戦争責任問題について発言

カルヴァン『キリスト教綱要』の翻訳や研究、日本の戦争責任問題など、多方面で発言してきた渡辺信夫(わたなべ・のぶお)氏が3月27日、東京・世田谷区北烏山の久我山病院で、脳内出血のため逝去。96歳だった。
1923年5月5日大阪府に生まれる。京都大学文学部哲学科卒、77年「カルヴァンの教会論」の研究によって京都大学で文学博士。58年より日本キリスト教会東京告白教会牧師に就任し、2011年まで牧会。以後、日本キリスト教会教師として諸教会に奉仕した。台湾人元「慰安婦」裁判を支援する会会長。戦時中は海軍少尉として従軍。その反省から戦後は抵抗権や戦争責任問題にかかわってきた。
著書は『教会論入門』『教会が教会であるために』(新教出版社)、『カルヴァンの教会論』(カルヴァン研究所)、『アジア伝道史』『戦争で死ぬための日々と、平和のために生きる日々』『信仰による抵抗権』(いのちのことば社)ほか。訳書は、カルヴァン『キリスト教綱要』、レオナール「プロテスタントの歴史』(白水社)ほか。
葬儀は4月2日、東京・世田谷区北烏山の日本キリスト教会東京告白教会で執り行われた。司式は澤正幸牧師(日本キリスト教会福岡城南教会)、喪主は妻の鈴女氏。
澤氏は、11歳から28歳で神学校を卒業するまでを東京告白教会で過ごした。新型コロナウイルス感染拡大の事態に触れ、「渡辺先生の生涯、生き方、その教えを思い起こす者として、私には教会が主日の礼拝を休むなどということは心に思い浮かびようもない。他者への配慮、弱い人への愛における思いやりといったことを持ち出す前に、情緒に流されるのでない、およそヒューマニズムとは異質なもの、もっと厳しい、厳粛な、神を神とする、神の聖、神の義、神の真実に対する恐れと愛があった」と述べた。
一方、渡辺氏は「信仰者の人生には敗北するということもある」「人間は皆罪人」と語っていたと紹介。「中心的メッセージは『罪の赦し』。戦争体験、戦争罪責が先生の生涯を大きく決定づけた」とも指摘した。
「先生の正しさ、厳しさは、決して律法主義的な義を要求するものではない。福音における、罪の赦しにあずかった者としての感謝の生き方、また恵みを受けた者が、自由と喜びをもって選び取る正しさであり、義」と語った。渡辺氏の「敗北」の言葉は、「敗北主義に陥らせるのでもなければ、安易な妥協に流され、止まるような生き方につながるのではなくて、それとは正反対の神の恵みの勝利を目指す生き方」と話した。