母語の聖書を持たない人々のため、世界各国で聖書翻訳とそれに関連する多くの活動をしているウィクリフ聖書翻訳協会の宣教師たち。だが、新型コロナウイルス感染拡大は宣教地での聖書翻訳等の働きに大きなチャレンジを投げかけている。国外にいる日本ウィクリフ聖書翻訳協会(松丸嘉也総主事)の宣教師からの報告とともに、松丸氏が新型コロナ感染拡大下での聖書翻訳宣教の共通課題を挙げた。

▽A国に派遣されている宣教師の報告。
 感染確定者が増えている。国内では医療設備・技術などの面で圧倒的に不足し、重篤化した場合の危険は日本と比べられない。政府も国民もその点を理解しており、感染者が少数の段階から、先手を打ってロックダウンなどの措置を行っており、感染者増加はかなり緩やかなペースだ。だが、同僚らは突然の国境閉鎖のため「任地の自宅」に戻れず、任地に残っているメンバーは国外に出ることがほぼできなくなっている。私たちが仕事をしていた任地協力団体の事務所も自主閉鎖し、各自テレワークになっており、働きのスローダウンは避けられない。
 ▽B国に派遣されている宣教師の報告
 3月半ばから全土封鎖が始まり、封鎖の期限を数回にわたり延期。すべての国内線・国際線の運航が停止中。政府は警官を動員し、許可なく不要不急の通行をしている人々や車両を取り締まっている。外出禁止令が出ているため、すべての聖書翻訳プロジェクトの母語翻訳者たち、聖書翻訳・識字教育プロジェクトに関わる任地のウィクリフメンバーが自宅待機中。本国からの要請やビザの期限が切れるなどの理由で帰国したメンバーもいる。計画していた活動は中止・延期。ネットにアクセスできる場合、ウェブ会議を使い聖書翻訳のチェックをしているチームもあるが、ごく少数。任地のメンバー同士のコミュニケーション維持のため、隔週、ウェブ会議でグループミーティングが行われている。デボーション、近況報告、祈祷課題の分かち合い、互いのために祈る時間はある。

 これらの報告から、以下の共通課題を挙げる。(1)聖書翻訳の各プロセスで広範囲に影響が出ている。(2)任国での医療事情や国際間の渡航制限に鑑み、多くの宣教師とその家族が急きょ帰国を余儀なくされた。(3)派遣される予定だった宣教師が赴任できない状況で、宣教師の数が極端に少なくなり、聖書翻訳の継続に影響がある。(4)翻訳の審査などでネット活用が増えているが、ネット環境や電力供給をはじめ社会的なインフラが整っていないなどの現実問題が多々ある。(5)宣教師の子どもたちの教育に大きな影響が出ている。(6)ウィクリフやパートナー団体との間で予定されていた国際会議がすべて中止、ウェブ会議などに切り替わっているが、現時点でウェブ会議には限界がある。
 特に①では、◇言語地域(多くの場合奥地の「村」)にいた宣教師は働きを急きょ取りやめ、「宣教センター」に戻り自宅待機、◇生活と活動の拠点である「宣教センター」も封鎖となり、日本以上に厳しい制限がある、◇現地の翻訳者を訓練するセミナー、ワークショップ、識字教育の活動の中止や無期限の延期、◇翻訳を終えた聖書や賛美歌集の印刷・製本・輸送などの停止や延期、◇現地で準備が進んでいた聖書献呈式など非常に大切な行事等の中止や無期限の延期、などの影響が出ていると指摘。「聖書翻訳宣教では、まだ文字化されず、文法なども十分に解明されていない言語を取り扱うことから、現地の方々との直接的な協力関係・共同作業が欠かせない。その点だけでも、聖書翻訳にとって感染拡大は非常にチャレンジだ。このことを通し、神様は今後の聖書翻訳宣教を新しい段階へと導いておられるのではないか。新型コロナウイルス感染の終息と、終息後の聖書翻訳宣教がさらに主に用いられるために、ぜひ共にお祈りしてほしい」と、松丸氏は要請した。