11月15日号紙面:『日本キリスト教歴史人名事典』刊行 総収録5,000人以上 先人の活力 現代に励まし 日本社会、学術界にも影響広く
総収録5,000人以上『日本キリスト教歴史人名事典』刊行 先人の活力 現代に励まし 日本社会、学術界にも影響広く
日本のキリスト教にかかわりのある5千150人の人物を網羅した『日本キリスト教歴史人名事典』(以下『人名事典』、鈴木範久監修、日本キリスト教歴史大事典編集委員会編、教文館)が発売され、キリスト教界のみならず、日本の読書界、研究者らの間で反響を読んでいる。各人物を通して、日本社会の各分野にキリスト教の影響を確認できるとともに、現代、将来の教会にも励ましを与える内容となっている。【高橋良知】
日本のキリスト教史を網羅した事典としては、1988年に刊行された『日本キリスト教歴史大事典』(教文館)が知られる。「刊行から30年以上経ち、その間の歴史を記録する意味で改訂が検討されたが、団体や出来事は激しく変動しているため、人物に特化した事典を目指し、このように収録数の多さと深みを併せ持った事典ができた」と教文館出版部部長の石川正信さんは言う。「遠藤周作さん(96年逝去)や三浦綾子さん(99年逝去)など、直近の2010年までに亡くなられた方をはじめ、ザビエル来日から現代までのあらゆる分野のキリスト教関係者を網羅できました」
今回新たに670人が増補。全体についても新たな研究成果を加えた。戦後の宣教師をはじめ福音派の関係者なども掲載された。いわゆるキリスト教の功労者だけを載せていないのも特徴だ。迫害にかかわった人物も掲載する。「教会の組織に属した人だけではなく、何らかのプラス、マイナス面で影響のあった人を載せている。NHK連続テレビ小説『エール』の主人公のモデルで、音楽家の古関裕而も経験したことだが、西洋の文化はキリスト教を通して入ってきた。文化方面で活躍した意外な人物で牧師の子どももけっこういました」
さらに著名ではないが、功労があった人物にも光を当てた。同事典編集担当の髙橋真人さんは、「遺族の協力で情報が集められた項目もある。ある研究者からは、『今まで調べて分からなかった人物のことが、この事典で分かった』と反響をいただいた。事典ではあるが、一次資料にもなりうるのだと実感しました」
また「インターネットで調べても載っていない情報も多く載せている」と強調。「編集では『正確であること』を大事にした。まったく異なる組織名でも実は同じ組織だったこともあるし、同じ名前でも別の組織だったということもあった。様々な人物間の記述の整合性も大事にしました」
石川さんは「研究者やマスコミにとって必須の事典だと思うが、ぜひ教会でも活用してほしい」と勧める。「説教で人物を紹介する際も、名前や一面的な業績だけではなく、その人物の様々な面を知ってもらうことで内容がしっかりすると思います」
髙橋さんは、「事典から様々なことが学べるはず。日本の宣教がうまくいったか、いかなかったかという視点だけではなく、キリスト教文化や思想がいろんな意味で、幅広い分野に影響が及んできたことを知っていただきたい。外国人の名前も多数載っている。日本のキリスト教の動きを知ることを通して、海外の修道会、宣教団体も同時に動いていた様子を知ることができます」
重ねて石川さんはこう述べた。「この事典はただ本棚に置いておくだけではなく、どんどん使ってほしい。歴史ある教会でもなかなか、自分の教会や創立者たちの歴史を知らない。自分の教会、教団教派だけではなく、様々な教会や信仰のルーツを知ると刺激を受ける。多くの教会では、信徒が高齢化しているが、昔の人たちのエネルギーを知ることで活力が得られるのではないか」。
髙橋さんも「日本の社会、文化の歴史の中に、『キリスト教』が流れていることを知ってほしい。様々な教派を知り、様々な分野への影響を知ることで、クリスチャンは一般の人と対話する力を養える」と語った。
▽『日本キリスト教歴史人名事典』B5判、984頁、定価4万9千500円税込(11月30日までは特別価格4万6千200円税込)
同編集委員会には、山口陽一氏(東京基督教大学学長)も加わった。この事典の意義を以下のように語った。
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編集委員会7人の中に福音派の立場で加わったことは、大きな意味があると思う。教文館の編集実務者5人をはじめ、項目選定協力者25人、執筆者・項目改訂者303人に協力していただいた。
日本におけるキリスト教の存在感は、人口比1%よりはるかに大きいと思う。私立大学約600校のうち10%の60校がキリスト教主義だ。教育、特に女子教育に果たしたキリスト教の貢献は非常に大きいものがある。この5千150人は、日本におけるキリスト教の、多岐にわたる貢献を証している。そういう意味で、「多くの証人たちが、雲のように私たちを取り巻いている」(へブル12・1)ことを実感する。日本は殉教者の多い国であり、カトリック教会が厳密に殉教者と認定する人々が5千500人いる。今回の事典の収録人数と比較すると、5千500人の殉教の重さを再認識させられた。
2010年で区切ったが、それ以後の10年で戦後の日本のキリスト教を牽引された方が続々と召天された。福音派という戦後の新しいグループにおいては、特にその感を否めない。
今回は『日本キリスト教歴史大事典』の人名の改訂・追加のみとなったが、事象の歴史大事典が編まれる日には福音派の事象・教会がたくさん加えられるだろう。現在、『日本キリスト教歴史大事典』の改訂にも加わっており、こちらには日本福音同盟(JEA)や日本伝道会議などの項目を書いた。福音派で独自に事典を編むのは別の問題があるが、JEAに関わる人と事象の事典などがあったら良いとは思う。