【関西だより】「親しさと暖かさ溢れる」祈りの家  ヴォーリズ建築のエッセンス伝える アシュラムセンター「シメオン黙想の家」完成

教派を超えた祈りの運動アシュラム運動の拠点、滋賀県近江八幡市の宗教法人アシュラムセンターに新修道場「シメオン黙想の家」が完成した。現・株式会社一粒社ヴォーリズ建築事務所が1931年に同市に建てた、現在国の登録有形文化財でもある「旧前田邸(旧佐藤久勝邸)」を改修した建物で、当時の姿そのままの美しさを再現して、祈りの家としてふさわしい環境に整えた。2020年12月12日に改装記念講演会と内覧会を開き、同建築事務所非常勤顧問で公益財団法人近江兄弟社嘱託研究員の芹野与幸さんが、ヴォーリズ建築の貴重な遺産であるこの建物について講演した。

写真は改装記念講演会当日に行われた内覧会

静かな住宅街の一角、広い庭に面して丸い大きな窓が印象的な「シメオン黙想の家」が建つ。この、幾つもの装飾を施した窓が家を彩る、目にも楽し気な和洋折衷の建物は、当時のヴォーリズ合名会社建築事務所の設計者だった佐藤久勝さんが自邸として建てたものだ。佐藤さんは、八幡教会の日曜学校の校長を務めた、熱心なクリスチャンでもあった。
建築、医療、教育等多くの事業を通して伝道したウィリアム・メレル・ヴォーリズ。そのヴォーリズのもとで多くの建築を手がけ、欧米を視察して研さんを積んだ佐藤さんは、自邸の建築について「我家こそ、どこまでも、親しさと、そして暖かさとの溢(あふ)れている住宅で、あらしめよう」と、1931年の近江兄弟社月刊誌「湖畔の声」に寄稿している。しかし、その思いを反映した家の完成後、佐藤さんは新築の我家で数週間暮らしただけで病気で亡くなってしまう。まだ42歳だった。その後は友人の前田氏の住まいとなり、2020年に「シメオン黙想の家」としてよみがえった。
芹野さんは講演会で、ヴォーリズの足跡と建築理念に触れ、今も親しまれ愛されるヴォーリズ建築は、佐藤さんら優秀なスタッフの力が合わさってできたものだと語った。
ヴォーリズの伝道は「地元の人々にとって何が必要か」に着目することから始まった。結核になっても遠い京都や大阪の病院まで行かなくていいように、近江療養院を建てた。結核患者が忌避された時代、共同墓地も作った。生活改善運動が興った大正から昭和初期、ヴォーリズも運動に名を連ね、女性を中心とした家作りを提唱し、耐震建築についても論じている。それは「職人の人格が耐震建築の要である」という内容で、現場で働く人の人権に言及した、現代にも通じる考え方だ。
芹野さんは「ヴォーリズは家を哲学した人」だ、、、、、

2021年1月3・10日号掲載記事