絶望に寄り添える存在を目指して 在米・コロナ&精神科 病棟担当チャプレン 関野和寛さん

牧師のガウン姿でかき鳴らすベース。ロングヘアを激しく揺らしながら力強く放つ歌の強烈なメッセージ。プロテスタント教会の中でも特に典礼を重んじるルーテル系の牧師でありながら、ロックに生きる姿が話題の関野和寛さん。昨春に14年勤めた教会の牧師を辞し、今は新型コロナウイルスの感染が拡大するアメリカの病院でチャプレンをしているという。常に世間の意表をつく〝ロック牧師〟に、お話を伺った。【藤野多恵】

 

極限のいのちの現場
コロナ感染患者に寄り添う

ミネソタ州ミネアポリスにあるアボット・ノースウェスタン病院が、関野さんの今の職場。担当はコロナ感染者病棟と精神科病棟で、病床を毎日訪問して患者の精神的なケアに携わる。特にコロナ病棟の患者を訪ねることには特別な意味があるという。「医師、看護師、チャプレンだけが入室を許されており、家族も入れません。医療ケア以外で患者に接する唯一の存在がチャプレンです。決して代わりにはなれないんですけど、家族に代わる存在として心のケアに努めています」
コロナに感染したことで、患者たちは「このまま死ぬんじゃないか」「家族や友人にうつしたんじゃないか」といった極限の不安の中にいるという。「誰にも面会できず、私たちチャプレンとも長く話すことはできません。それでも、行くと涙を流す方が大勢おられます。彼らにとって私たちの存在そのものに意味がある。いろんな宗教の方がチャプレンとして働いていますが、全員が神に遣わされて病室に入るんだと思います。患者さんたちには打算も駆け引きもなく、純粋に命がかかった中でのやり取り。これこそが宗教の現場だと思います」
そんな中で関野さんが気をつけているのが「宗教用語を使わない」ということ。軽々しく祈ることにも注意を向ける。「チャプレンの同僚たちと、『話すことがなくなったから何となく祈りで締める』『ことばをもたないからキリスト教用語で装う』ことをやめようと話し合いました。必死で求めてくれている患者さんに、とてもそんなことできませんから」

 

繁華街の人々から学んだ
「本音で生きる」ということ

「何となく装わない」。それは、前職である日本福音ルーテル東京教会での牧師時代に身をもって学んだことでもある。同教会は、新宿区最大の繁華街・歌舞伎町の裏手にあり、風俗店の関係者、ホームレス、〝裏家業〟の人など、「日本の多くの教会にはあまり来ないであろう」さまざまな人との関わりが日常だった。「そういった方々には、ふだん教会で使っている『恵み』とか『祈りに覚えて』といった〝用語〟が、一切通用しないことに気づいたんです。言ってみれば、彼らのほうが牧師やクリスチャンよりずっと人を見抜くし、人生というものを知っているんですよね。なのに教会には『真理を教えてあげよう』といったどこか上から目線があって、それは絶対相手に伝わってしまう。だから『救いを与える』ではなく、本音でぶつかる中で、キリストを信じているんだということを発信していくべきじゃないかと思ったんです」
以来関野さんは、牧師になって一度は封印した大好きなロックを再開し、日本福音ルーテルの牧師仲間とバンド「牧師ROCKS」を結成。飾らず、〝むき出しの魂〟で叫び続ける姿が話題となり、宗教や職業、年齢、障がいの有無などの〝壁〟を超えあらゆる所から声がかかった。老舗のホストクラブでの演奏や、若手僧侶らのバンドと共演したこともある。
はた目にも異色で濃厚な牧師生活、、、、、

(渡米の理由、その元にある牧師を志した体験に話は及びます。2021年2月7日号掲載記事