先日、ある番組の講演を聞いていたのですが、その講演者が聴衆に向かって「今回の選挙で、あなたの身近な人で、あなたにはとても理解できないと思えるような投票をした人がいれば、手を挙げて」と言いました。するとすべての人が手を挙げました。「それが分かった後も、その人と親しい関係を続けている人は」とさらに問いかけると、ほとんど全員が手を挙げたのです。

自分の身近な人になら当たり前のようにしていることでも、それが広く社会のレベルになると、なぜか私たちは同じようにはできないようです。メディアは、25対25で拮抗する選挙情勢を示し、連日のようにこの国の深い分断の徴候を報じています。私のフェイスブックからもその分断は見て取れます。まるで無関係な投稿が、ジョー・バイデンとドナルド・トランプ双方の、マスクをする者と拒否する者双方の、誹謗中傷の応酬に火を付けることにもなりかねない情況ですが、意見の異なる人とも誠実に話し合いたいと願っている人に対しては、私は次の三つの手順を勧めています。

①より良い議論
議論そのものがなされなくなっている現状に対して、より良い議論をこそ、と呼びかけるウェブサイトを見つけました（https://bit.ly/PYargue)。このサイトは役に立ちます。まず心がけることは、誰かとの会話の中で、あなたが同意できないと思われるような微妙な問題が持ち上がってきた時には、こんなふうに言ってみるのです。「あなたを説得して考えを変えさせようとは思わないし、私が説得されることもないだろう。だから、どちらが正しいか、というような考えはしないことにしよう。でも、あなたがどのような視点を持っているのかは、理解したいと思っている」。それから、相手の話に耳を傾けよう、というのです。相手の主張を正しく理解するために、その言い回しを変えてみたり、さらに質問したりすることはあるでしょうが、その主張を論破しようとする気持ちは抑えて。

彼らの実践を読んでいて、これは私がジャーナリストとして自然にやっていることだと気づきました。私はこれまで、自分とはまるで考えの異なる人にインタビューし、彼らがどんな人物かを記事にしてきました。現職の大統領、ロシアの官僚、無神論者、あからさまな人種差別主義者、殺人犯。その話にいちいち異議を唱えるなら、彼らは直ちに心を閉ざしてしまいます。必要な話は何も聞けずに、結果として私の記事を読んだ読者に誤った判断をさせることになるでしょう。そうではなく、穏やかに質問して、その内容から、彼らが本当にどのような人物なのかをうまくあぶり出し、読者が自分でその人物を判断できるような記事を書きます。「その時の決断を後から悔やんだことはありますか。振り返って、どう思います？」。有能なカウンセラーは、相手をまず自己理解へと導きます。どのような結論が出るにせよ、それがまず必要だからです。

同様にジャーナリストとしての私にとっては、その人の見えなかった側面をうまく引き出してやるほど、より正確にその人となりを描くことになるのです。そんなインタビューの技術は、どんな場面でも使えるわけではありませんが、自分の考えを分らせようとするのでなく、相手の考えを理解しようとする時には、役に立つものです。

②真の共感
選挙に勝利したバイデンがアメリカ国民に向かって「もう一度お互いを見つめ、もう一度互いに耳を傾けよう」と強く訴えた後、政治学者で「タイム」のコラムニストのイアン・ブレマーは次のようにツイートしました。「今こそ、すべてのバイデン支持者は出て行って、一人が一人、トランプに投票した人に手を差し伸べる時だ。彼らに理解を示そう。あなたがどんな気持ちでいるか分かっている、と彼らに伝えよう（４年前の選挙の時からそうしているけれど）。同意できる事柄を一つ見つけよう」

これに対しては、怒りのツイートの嵐が巻き起こりました。右派の人たちは、以前自分たちを偏屈なファシストとしてなじった人たちの恩着せがましい態度と感じたし、一方左派の人々はトランプの支持者とは何の関係も望んでいませんでした（「この国を元に戻すには、トランプに投票した者を一人残らず刑務所に入れるしかない」と答えた人もいます）。あえて行った団結の呼びかけは、分断の溝を広げただけのようでした。

１週間もたたないうちに、暴徒と化した一団が連邦議会議事堂を占拠するのを見て、全世界がショックを受けました。抗議する彼らは、十字架とイエスの旗を、南軍の旗や相手を罵倒する看板とともに振っており、私はそれを見てぼう然としました。彼らは一度でも福音書を読んだことがあるのでしょうか。

イエスは究極の調停者です。自分とは異なる人に手を差し伸べ、お互いに異なる人々の間に手を差し伸べました。12人の弟子の中には、革命を企てる熱心党員もいれば、抑圧する側のローマ人のために働く取税人もいました。社会的に排除された「汚れた」人を癒したその日に、会堂司の娘をよみがえらせました。病気の乞食、反抗的な息子、軽蔑されたサマリア人など、考えられないような人たちが、イエスのたとえ話には、主人公として登場しました。それほどまでに彼らを擁護したため、罪の無い人であるイエスが、罪人の友とレッテルを貼られるようになりました。

自分と対立する相手にどう接するかは、一言のツイートに収まってしまうほどわずかな言葉で示しました。「あなたの敵を愛し、迫害する者のために祈れ」。そしてその模範を示したのです。「彼らは自分が何をしているのかわからないのですから」と自分を殺そうとする者を思い遣って祈り、親しい友でありながら自分を三度も裏切ったペテロを赦すことによって。

２０２１年の米国のように分断が進む国にあっては、イエスの言葉はバカげて聞こえる。そう私と同じように考える人々の中に逃げ込むことは、共感と和解に向けて困難な一歩を踏み出すよりもはるかに簡単です。しかし、イエスだってそれが簡単なことだなどとは決して言いませんでした。

③互いに敬意を払う
最近は、誰もが自分は尊重されていないと感じているようです。トランプに投票した７千400万人だけでなく、バイデン以外の候補者を望んでいた進歩的な民主党員も、プラウドボーイズとアンティファも、ブルーカラーの白人と警察に抑圧されたマイノリティーも。今日の「キャンセル文化」では、自分が認めない人たちからは話を聞くことすら拒否します。その穏やかな対応を挙げれば、大学はジェンダーの問題や中絶について異なる見解を持つ講演者を招くことはしませんし、より険悪なものとしては、白人至上主義者とブラック・ライブズ・マターの擁護者が、境界線を越えて互いに叫び合い、しばしば暴力を扇動しています。

そのような中でダリル・デイビスは、彼らと向き合う一つの方法を示しています。アフリカ系アメリカ人である彼は、200人以上の人種差別主義者にクー・クラックス・クラン（ＫＫＫ）やネオナチ運動を去るよう説得した興味深い経緯をネットに上げています。（https://bit.ly/PYddavis、https://bit.ly/PYddavis18）

デイビスはミュージシャンとしてキャリアを積んできた人ですが、時が経つにつれ、誰もがウイルスのように避けていた白人至上主義者とネオナチを理解するよう求められていると感じるようになりました。彼はＫＫＫの指導者たちと親しくなり、時には彼らの集会にも参加しました。そこでは、彼はフードをかぶっていない唯一の人物であり、間違いなく白人でない唯一の参加者でした。彼らに自分の話を聞いてもらえるような関係を築くと、デイビスは黒人に対する彼らの誤った認識を正すのを手伝いました。彼は敬意を持って相手の話を聞く技術を身に付けたのです。やがて彼は、彼らの信念に対して意見を言うようになり、それも彼らが信じていると主張した聖書そのものを使って行ったのです。

彼のように、いわば過激派である敵のアジトに乗り込むような大胆さを持っている人はまれでしょうが、それでも目的が同じであるなら、自分とは異なる考えの人とも一緒に活動するくらいのことはできるでしょう。デイビスは、囚人やホームレスや移民への奉仕など、政治的には異なる考えを持つ人々にも関心の高いミニストリーを探して参加することを勧めています。

相手の主張に目をつぶったり、自分の信念を妥協させたりしなくても、その人を理解して尊重することはできます。その過程で、彼らは見解を変えるかもしれませんし、あなたの視野が広がるかもしれません。（２０２１年１月掲載のヤンシー氏ブログより、抜粋、要約：編集部）