右奥からフォン、アン、ニューの3人 (C)2020 E.x.N K.K. / ever rolling films

在日ミャンマー人家族の愛情を描き移民問題をみつめた映画「僕の帰る場所」(2017年)で第30回東京国際映画祭アジアの未来部門作品賞を受賞した藤本明緒監督の長編2作目。本作では、藤本監督自身が実際に技能実習生から受け取ったメールをきっけに、実習生や失踪した当事者、彼らを支援している保護シェルターなど取材して脚本を書きあげた。2020年6月時点での外国からの技能実習生数は約40万人、そのうちベトナム人は22万人に上り、在留外国人数は282万9416人で総人口の2.24%を占める。統計面でも“移民国家”へと歩んでいる日本。ベトナムから来た技能実習生3人の物語をドキュメンタリータッチの演出は、外国人技能実習制度を悪用した労働環境から逃れて懸命に生きようとする実情をリアルに描いている。

技能実習生から不法滞在へ
3人のベトナム女性ら描く

ベトナムから技能実習生として来日したフォン(ホアン・フォン)、アン(フィン・トゥエ・アン)、ニュー(クィン・ニュー)の3人の女性たち。だが、一日15時間労働で土日も休めず残業代さえ支払わない過酷な職場だった。彼女たちはそこで3か月働いたが、伝手を得て北の海辺の漁港へと逃げた。

紹介者のダンは漁師道具の倉庫に3人を案内し、彼女たちに新しい銀行カードを手渡す。「不法就労だからパスポートや在留カードは使わないように」と注意するダンに、彼女たちは身分証とパスポートは前の会社に預けたままだと答える。の仕分けや漁具の手入れなどをこなす彼女たち。仕事が辛く感じるときは、弟の教育のことや家族のため給料日には母国の家族へ送金しようと励まし合う。

妊娠していることが判明したフォン。仲間の二人にも大きな問題と迷惑をかけることになるかもしれない。どうする… (C)2020 E.x.N K.K. / ever rolling films

ある日、3人が雪で遊んでいるとき、フォンがお腹を抱えて倒れ嘔吐した。翌日も体調が悪いフォンは、アンとニューに「妊娠したかもしれない」という。母国の彼氏に何度も電話するが相手は出ない。一人で決断しなければならなくなったフォンは、妊娠かどうかを確かめるため保険証と在留カードの偽造を依頼する…。

職場からの失踪と不法就労の不安
サスペンスフルなストーリー展開

技能実習制度で働く在留外国人の存在は、地方では重要な労働力になっている。だが、低賃金での過酷な労働環境や5年という在留期間の制限から出国時の借入金が返せないため、失踪して不法就労するなど技能実習生を取り巻く制度面での課題・問題も多く取り沙汰されている。

だが、本作はそうした在留外国人の技能実習制度の問題を衝くよりも、不法就労してでも働いて母国の家族に送金するため生きていかなければならない人たちの存在、その心情や苦境に注視している。単に低賃金の使い捨て労働力としか在留人外国人の存在を見いだせないとした、それは文字通りのエコノミックアニマルな価値観を黙認することにならないか。ニュースで流れる在留期限の超過や家畜を盗む事件報道などに接するとき、彼女たち3人の物語が意識のどこかに想い起される日本の人間でありたい。排除ではなく心を知ろうとする半歩前進へと語り掛けているように感じられる作品だ。【遠山清一】

監督・脚本:藤元明緒 2020年/日本=ベトナム/ベトナム語・日本語、英語字幕/88分/英題:Along the Sea 配給:E.x.N 2021年5月1日[土]よりポレポレ東中野ほか全国順次公開。
公式サイト https://umikano.com
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*AWARD*
2021年:第36回大阪アジアン映画祭 特別招待作品部門出品。 2020年:第68回サンセバスチャン国際映画祭新人監督部門出品。第33回東京国際映画祭ワールド・フォーカス部門出品。第42回カイロ国際映画祭インターナショナル・パノラマ部門出品。