【教育特集】自由学園 より良い社会のために自主活動
より良い社会のために自主活動 自由学園 学園長 高橋和也さん
写真=男子部・女子部(中・高等科)自主活動「コロナ禍の私たちの社会を考える会」の会議
西武池袋線ひばりヶ丘駅から線路沿いを歩くと、緑に囲まれた自由学園南沢キャンパスがある。広々とした敷地に、幼稚園生から小学生、中高の男女、大学部生が学ぶ校舎がそれぞれ建っている。ジャーナリストの羽仁もと子・吉一夫妻によって100年前に創立された同学園は、キリスト教を土台とした「生活即教育」を重視してきた。礼拝、食事作り、清掃、畑の手入れなどに生徒が主体的にかかわり、各学年一クラスの少人数教育を実践するが、昨年のコロナ禍発生直後には、校舎に人影がなくなった。
昨年2月末、コロナ市中感染拡大を受け、女子部、男子部の寮は閉鎖し、自宅学習に移行した。卒業式、修業式は縮小開催し、始業式、入学式はオンライン配信で実施した。
校長の高橋和也さんは画面を通じて「どんな時代どんな社会にあっても、よく生きよい社会をつくる人として学び続ける志を大切にしよう。登校できない今は、それぞれの学びの場である家庭が皆の学校。自分のできることを考えて生活しよう」と励ました。
緊急事態宣言が解除された6月からは幼小は分散登校を始めた、寮を持つ中高は、8月24日から2学期を開始した。その後はオンラインと対面を併用し、ラッシュ時の登校を避けた。寮も利用者を制限して再開した。9月からは生徒による食事づくりを衛生に配慮しつつ始めた。人数や座席配置も気を付けた。
寮の再開も神経を使ったが、「むしろ保護者の皆さんの寮に対する期待や信頼が大きかった」と言う。生徒が自主管理する寮は自由学園の特徴を表す場の一つだ。「特に男子は入学後100日寮で過ごす。一年生を優先し、部屋の人数を制限して、ほかの部屋に入らないようにした。病者対応スタッフの常駐など工夫しました」
写真=男子部高2国語のオンライン授業でSNS上の誹謗中傷について特別授業を行い、ディベートを実施した
授業は当初プリント郵送とファイル共有サービスGoogle Driveなどを使用したが、4月までにはオンライン教育システムGoogle Classroomを導入した。毎朝検温と健康確認をし、Zoomで礼拝、ホームルームを開いた。授業は工夫して、美術・体育を含むすべての科目を時間割通りに行った。Zoomで生徒たちが交流できる場を設けたり、生徒有志で懇談会を開くなどの動きもあった。「ICT(情報通信技術)の導入が進んだことはプラスの機会だった。若手教員の活躍に支えられ、教師間の協力も生まれた」と振り返る。
女子部では料理づくりを家庭で実践し、写真を共有してそれぞれが刺激を受けた。裁縫は手元が分かる詳しい動画を作成した。男子部では運動部で、GPS機能で走行タイムを測定するなど、個々のトレーニングを励ます工夫をした。
「庭園の整備をやりたいと言う学生も多く、人数調整して実施した。自然に触れて友だちと活動する価値を覚えているようだ。夏休み期間は、有志の保護者が手入れをしつづけてくださった」
社会の問題に目を向けた生徒たちもいる。男子部では各界のゲストを呼ぶ「平和で持続可能な社会づくりのための学び」の動画を有志の生徒・教員で作成し一般公開したり、ソーシャルアクションチームを立ち上げて、ホームレス支援活動をするなどした。
また1学期の自宅学習期間に、社会に広がるコロナ差別に心を痛めた生徒たちの中から「学校はいつ誰が感染しても決して差別が生まれない安心な場にしたい」という思いが生まれた。そして女子部、男子部で合同の「コロナ禍の私たちの社会を考える会」が立ち上がり、具体的な問題を議論し、啓発のスピーチやスキット動画を作成して全校で共有した(自由学園のコロナ禍対応についてNHKワールドが取材した動画が期間限定で公開されている。https://www.jiyu.ac.jp/blog/info/75183)。
今年自由学園は創立100年を迎え、2024年の男子部・女子部の共学化に向けて、学園全体や生徒間での取り組みが進む。「新しい時代をつくる女性の教育を目的に始まった本学園は、やがて男子部もでき、より良い社会(それが神の国となるのですが)をつくる教育という理念を一貫して持ってきた」と高橋さんは語る(創立100年にかかわる記事は次号以降で紹介)。【高橋良知】