映画「ソ満国境 15歳の夏」--旧満州に置き去りにされた中学生たちが経験した中国人の隣人愛
自国民が他国軍に攻撃された場合は、軍隊(自衛隊)は国民を守る存在。先の集団的自衛権行使に絡み与党答弁者は、軍隊が国民を守るために交戦するのは当然であるかのように説明している。だが、70年前の旧満州開拓団の中学生たちは、不可侵条約を破棄して国境を超えてきたソ連軍を察知した日本軍に守られることなく置き去りにされた。その実体験を記した同名の原作を基に現代の15歳に語り継がれるメッセージ。
2012年。3.11東日本大震災から1年後の福島。吉川敬介(柴田龍一郎)は家族とともに故郷の町から仮設住宅での避難生活。通っていた中学校も被災し、同じ放送部員の今中和美(木島杏奈)、岡崎隼人(澤田怜央)、橋本翔太(清水尋也)たちとともに編入された。ある日、放送部顧問の古賀 遥(大谷英子)が放送機材一式と中国からの招待状を持ってきた。中国・黒竜江省の石岩鎮という小さな村を取材に来るなら放送機材を寄贈するという。
資料として『ソ満国境 15歳の夏』が一冊同梱されていた。戦争当時、ソ連(現ロシア)との国境に近い報国農場に勤労動員された旧制新疆第一中学校120人の生徒たちの壮絶な体験が記されていた。敬介たちは、報国農場があった黒竜江省東寧から取材を開始する。佐藤教官(金子 昇)と金森成義(三村和敬)ら中学生たちがソ連の攻撃に追われ避難する人たちの悲惨な様子や彼ら自身ソ連の捕虜収容所に50日間拘束された経験をたどっていく。
捕虜収容所を釈放された中学生たちだが、食べ物もなく帰国するための情報も得られないまま彷徨う。病人も出て最悪の情況で石頭村(現在の石岩鎮)にたどり着いた。だが、占領時代に日本人からひどい目に遭わせられてきた村人たちは、中学生たちを不憫に思いながらも村から追い出す勢いだ。それを村長は執り成す。農民たちの家々に学生たちを分散して宿泊させ、食事を与えて面倒を見る。憎まれ疎まれていた日本人だが、なぜ村長の執り成しを聞き入れ村の農民たちは親切にするのか。金森の問いに村長は、満州族の始祖始祖ヌルハチの故事を話し始める…。
日本軍に守られることなく満州に置き去りにされた中学生たちが経験した戦時下での難民体験。同じ年代の現代に生きる中学生たちとの距離感を縮めるためだろうか。福島原発事故で故郷に帰ることのできない仮設住宅の中学生たちの情況設定と問題の捉え方がストーリー展開に織り込まれていく。だが、“命の質”を考え、助け合うことが未来につながることがテーマの作品であることを考えると、導入部での放射能の影響に対する不安感や危険性の問題に関してもう少し丁寧に描かれてもよったのではないだろうか。戦争と人種問題、難民・被災者支援と放射能問題など、たんに敗戦時の悲惨な物語に終わらせていない作品作りにはうなづける。 【遠山清一】
監督・脚本:松島哲也 2015年/日本/90分/ 配給:パンドラ、ジャパン・スローシネマ・ネットワーク 2015年8月1日(土)より東京・新宿K’s cinema、名古屋・シネマスコーレ、大阪・シネ・ヌーヴォにてロードショー。
公式サイト http://15歳の夏.com
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