サンファン号保存運動急浮上 「4分の1では伝わらない」
2017年に宮城県議会で解体が議決されたサン・ファン・バウティスタ号復元船(8月22日号1面参照)だが、市民の間から保存運動が急浮上し、国際的な広がりになっている。
19年に「サン・ファン・バウティスタ号を保存する会」(齋藤祐司代表)が石巻市で結成され、人づてに署名活動を展開すると、3千307筆(20年宮城県副知事に提出)が集まった。活動の中で、伊達藩士を顕彰する「仙台藩志会」有志や、スペインに残った慶長遣欧使節の子孫といわれる「ハポン」と交流する「ハポン・ハセクラ後援会」、サンファン号を演劇化してきた劇団「夢回帰船」出航プロジェクトらと連帯した。
齋藤さんは保存する会結成の思いをこう話す。「サンファン号への思いを持つ人はたくさんいるはずだが、解体について誰も疑問の声を上げていないと地元の後輩と話題になり、そこで二人でまず勉強会を開こうとなりました」
勉強会は人づてながら、約50人が集った。そこに川上直哉さん(日基教団・石巻栄光教会牧師)も加わった。「私が事務局を務める東北ヘルプ(仙台キリスト教連絡会被災支援ネットワーク)では、東日本大震災後数年して交流人口の維持、増加を課題にしていた。そこで東北キリシタンツアーを企画する中で、サンファン号復元船が大きな魅力を持つと分かった。やはり見える形で原寸大の船がないと印象は弱い」と話す。
コロナ禍を経て、保存運動が本格化したのは今年に入ってから。1月に「ハポン・ハセクラ後援会」代表でニューヨーク在住の白田正樹さんが代表を務め、石巻、仙台、アメリカ、メキシコ、スペインの多様な団体が賛同する「サンファン号保存を求める世界ネットワーク」が設立された。同ネットワークとして改めて署名活動を始め、朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、石巻日日新聞への意見広告を掲載、3月には石巻市、仙台市でフォーラムを開催した。日本船舶海洋工学会海事技術史研究会会長の平山次晴さん(横浜国立大学名誉教授)ともつながり、同工学会は、具体的な保存方法の提案も添えた要望書を4月に宮城県知事に提出。サンファン保存運動弁護団も結成され、6月に仙台地裁に提訴した。「夢回帰船」にかかわる女優・演出家の都甲マリ子さんがアンバサダーを務め、動画やSNS、広報活動をしている。
8月には、第2回フォーラムを石巻市、仙台市で開催。8日に石巻市で開かれたフォーラムでは、平山さんがサンファン号の歴史的意義と保存方法を具体的に解説、サンファン保存運動弁護団の石上雄介弁護士が訴訟の経過を報告した。訴訟は、秋までに予定される解体工事契約締結の差し止めを求める。
平山さんは、「江戸時代に太平洋を2往復したサンファン号の建造は日本の技術官僚、船大工の快挙だった」と言う。限られた資料の中で復元船を考証したのは、平山さんの恩師の故・寶田直之助横浜国立大学名誉教授だった。「歴史と現代技術の合体による快挙であり、実物の木の文化を実現した。4分の1スケールのプラスチック船では伝わらない」と述べた。保存方法については、復元船を浮かべている水を抜くと崩壊する危険があることが保存修復のハードルになっているが、砂を注入する乾燥方法を提案した。
第五福竜丸改修工事を担当した文化財建造物修理技術者の日塔和彦さんは、昨年5月にサンファン号を現地調査し、文書で報告を寄せた(仙台では講演)。保存修復のネックになっていた船大工については、宮大工の技術者で代用できること、県が現在提案しているサンファン館全館リニューアルにかかる概算20億円以上に対し、乾燥による保存修復によって6、7億円で賄えるとの見通しを述べた。
「サンファン号保存を求める世界ネットワーク」URL https://savesanjuan.net/
(8月22日号掲載記事)