「香港牧師ネットワーク」解散を宣言 政治的圧力の中で
香港国家安全維持法(国安法)の施行直前(2020年5月)に結成され、「香港2020福音宣言」(福音宣言)を発表していた「香港牧師ネットワーク」が、9月2日、正式に解散することを公式Facebook上で宣言した。
以下、『香港の民主化運動と信教の自由』の著書のある松谷曄介氏(金城学院大学宗教主事)がレポートする。
「福音宣言」は公表直後から4000人近い賛同署名を集めるなど反響を呼んでおり、国安法施行直後の2020年7月に親中派メディア「大公報」が同ネットワークと同宣言を激しく批判し、名指しの批判を受けた同ネットワークの中心的牧師二人が海外移住を余儀なくされるなど、大きな圧力を受けてきた。
その後、同ネットワークは運営メンバーを入れ替えて、毎月のオンライン祈祷会のみを継続してきた。国安法により政治的集会が規制され、コロナ禍で対面集会が制限される中にあって、毎回のオンライン祈祷会は、讃美歌と祈りの他、2名の牧師による説教がなされるなど、霊的運動であることを基本線としてきた。
国安法施行後、多くの民主活動家が逮捕・起訴され、言論の自由が大きく脅かされていたが、今年6月には民主派寄りの大手メディア「リンゴ日報」が解散に追い込まれ、8月上旬には40年以上の歴史をもつ香港最大の教員労組が親中派メディアから批判された直後に解散を宣言、さらに8月中旬には民主化運動を牽引してきた「民間人権陣線」も解散を宣言するなど、民主派寄りと見なされている民間団体に対する政治的圧力がより一層強まっていた。
そうした中、8月上旬には「大公報」が「宗教の衣をまとった個別の団体が、『宗教の自由』を口実にしながら香港をかき乱すような情報を拡散し、教会の信者を扇動し、中国反対・香港撹乱の活動をしている」という批判記事を掲載していたが、これは暗に同ネットワークを指していたと思われる。同ネットワークがこの時期に解散を宣言せざるを得ない状況に追い込まれていたのには、こうした背景があったと考えられる。
今後、同ネットワークは組織としては解散するものの、公式Facebook(フォロワー約23000人、https://www.facebook.com/HKPastorsNetwork)の削除は敢えてしない方向のようだ。FB上での解散公表の最後では、「この霊的運動が[一人ひとりの]生活の中でなお続いてゆき、香港の牧師・信徒、また海外に移住した牧師・信徒が香港を見守り続け、福音の真理を堅く保ち続け、あらゆる虚偽を拒絶し続けることを祈り願います」という一文と共に、「福音宣言」を福音の真理、また教会のアイデンティティーとして再確認することが呼びかけられている。
※以下、解散宣言の訳文。
共に歩んでくださった皆様、これまで香港を見守り、真理を守り、虚偽を拒絶し、決して諦めずに歩んでくださったことを感謝いたします。
現在の香港の情勢を鑑みると、状況は悪化の一途をたどり、民間組織や歴史のある組合が相次いで解散を宣言し、誰もが危機感を覚えています。こうした政治的圧力の中、私たち[香港牧師ネットワーク]は正式に解散を宣言し、同組織の運営とFacebookの更新を停止することを決定しました。ただし、Facebookページを自主的に削除するようなことはしません。
この霊的運動が[一人ひとりの]生活の中でなお続いてゆき、香港の牧師・信徒、また海外に移住した牧師・信徒が香港を見守り続け、福音の真理を堅く保ち続け、あらゆる虚偽を拒絶し続けることを祈り願います。
すべての教会が、まさに「香港2020福音宣言」が宣言しているように、福音の真理と教会のアイデンティティーとを確認することを祈り願います。
第一項 イエス・キリストこそ、福音そのものである。
第二項 イエス・キリストこそ、教会の唯一の主である。
第三項 教会は、福音を宣べ伝える証人の共同体である。
第四項 教会は、真理の柱また土台であり、虚偽を拒絶し、真理を堅く守る。
第五項 霊性と行動は、不可分である。
第六項 教会は、暗闇の時代にあって光の子である。
アーメン
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