左からのださん、永原さん、西尾さん

一般社団法人小さないのちのドア3周年記念&出版記念会が、神戸市北区のマタニティホーム「Musubi」を会場に開催され、オンラインでも配信。実例を漫画とレポートでつづった『小さないのちのドアを開けて 思いがけない妊娠をめぐる6人の選択』(いのちのことば社)が9月に出版され、記念座談会も催された。

小さないのちのドアは、思いがけない妊娠や出産で悩む女性たちのため24時間365日相談、受け入れ、支援を行う。2020年12月に行き場のない妊婦さんたちのための「Musubi」を開設、生活支援から自立まで一貫した支援が可能な場所作りを実現した。
冒頭、助産師の永原郁子さん(小さないのちのドアの代表理事)が挨拶。「一人のいのちでも救えたら」を合言葉にスタートして3年、約2万2千人の相談に応えてきた。赤ちゃん遺棄につながりかねない相談や中絶したくないと助けを請う声、自殺寸前のSОSに、祈りつつ言葉がけを続けたことも。妊娠後期で未受診の人が月4人強もいる。「今陣痛が」というケースも十数人あった。「いのちに直結する相談に全力で耳を傾けてきた。車中泊やネットカフェで暮らしている人に『すぐおいで』と言える受け皿が必要だと痛感した日々でもあった。孤立した妊婦が行政に相談しても、『あなたに使える制度はないので産んでから来て』と言われる。民間でやるしかないと『Musubi』を建て上げた。これまで十数人がここを利用しています」
昨年、政府は若年妊婦の支援事業として母子支援施設や乳児院を使用できるようにしたが、ごくわずかしか対応できていない。社会は心底冷たいと感じた人たちの助けを求める手は、その現実の前に引っ込んでしまう。「その人たちがもう一度手を伸ばした時は、事態はもっとひどくなってしまっている。そこから信頼関係を築くまでが大変でした」

永原さん

多くの妊婦が未受診のため、永原さんのマナ助産院でお産できる人は少ない。役所に同行し、健康保険を復活させ、一緒に病院に行き、家族の代わりになる。産後はMus
ubiで世話をし、就職や住まいを探し、母子の今後を整え送り出す。「施設を転用した時だけ衣食住を支援するのでは、根本的解決にならない。頼る所がない人に帰れる場所ができたと思ってもらえる制度が必要だ。それができた時、追い詰められた女性が産む選択をしやすくなる。産んでいのちを守ったことにより自己肯定感と希望を持って踏み出せる。いちばんつらい思いをしている妊婦さんや新生児が守られる国になるという夢、ビジョンが実現するよう、4年目を歩んで行きたい」
施設長で保健師の西尾和子さんが報告。コロナ禍で20年4月から相談件数が倍増。妊娠SОSは夜間7割、特別養子縁組は36人、生まれた直後のSОSが3人あった。「ここにつながる女性の多くが、社会から否定されたと感じる経験をしておられる。社会は決して冷たいばかりではない。温かい社会とつながってほしいと願っています」。
支援者2千人以上の名前で描かれたアート『つながるいのちの木』が紹介され、理事の大嶋博道氏(日本フリーメソジスト神戸ひよどり台教会牧師)が「この絵は、小さないのちのドアの働きを理解し支援している人々のエネルギーが込められている。絵に記されているヨシュア記1章5節は、Musubiを訪れる女性たちに『神は共にいる。勇気を出して前進せよ』との神の約束の言葉だ。この働きが神の祝福のもと広がっていくことを願っています」と挨拶した。
ゴスペルバンドPostmanの西尾洋さんがMusubiのPV楽曲に提供した「結び」を歌った後、座談会で著者の永原さん、西尾和子さんと、漫画を描いたのだますみさんらが、新刊について語った。
6人の登場人物は幼くして妊娠した人やDVで苦しむ人、中絶して苦しむ女性たち。のださんは「モデルの女性にお会いしたが、想像を絶するお話に圧倒され」一緒に涙を流した、と語る。
西尾さんは「漫画とコラムと特別養子縁組や避妊など、知ってほしい知識や情報が載った3部構成なので、多くの人に読んでほしい」と勧めた。
永原さんは「困っている妊婦と赤ちゃんのための制度作りは、20、30年後の日本の明暗を分ける。今後新しい小さないのちのドアができるよう踏み出したい」と結んだ。
小さないのちのドアを開けて』(税込千870円)は、全国キリスト教書店、いのちのことば社通販サイトで販売。