写真=震災後開設したキングス・ビレッジ

東日本大震災時、学生だった私(記者)は、所属していた仙台福音自由教会(以下仙台教会)の震災支援活動に合流した。【高橋良知】

前回まで

序 いわきから関東、再び仙台へ

①東北を祈る中で震災に直面

②通信困難な中、安否確認

③忍耐の一週間と支援の開始

④仙台から陸前高田へ

⑤陸前高田唯一の教会

⑥津波は教会堂手前まで

⑦震災前からの困窮/会堂流出の現場

⑧再建と地域の魂への思い

⑨仙台から気仙沼へ

2011年3月11日

気仙沼市市街地にある施設施設キングス・タウンでは職員、利用者、近隣からの避難で200人以上が一夜を過ごした。佐藤由美子さん(社会福祉法人キングス・ガーデン宮城理事長)は「仙台や石巻あたりまでは支援が来るだろうが、気仙沼まで支援が来てくれるだろうか」と心配だった。「近隣の幼稚園の園長の息子が東京在住で、SNSを通して、気仙沼沿岸が火の海となっていると状況を伝えてくれた。これを通して翌朝には東京消防庁が来てくれました」

 

 3月12日

前日津波で水に浸かった人たちがずぶぬれになりながら避難してきた。入居者用の一週間分の食料はあったが、さらに日頃から取引のある米屋に食料を確保してもらい、職員が荷車を引いて運んだ。テナントのコンビニエンスストアからも食料を提供してもらった。ガスなどインフラは通っていなかったので、外で火を起こして煮炊きした。
この日以降、消防庁をはじめ、様々な支援チーム、報道団体が訪れた。

 

 3月25日

私たち仙台教会チームは、キングス・タウンの森正義施設長(当時)と気仙沼市内を回った。南部のケアハウスは高台にあり、津波は免れていた。そこには古川福音自由教会員の夫妻が入居していた。電気は通ったが、水やガスは復旧していなかった。「入浴ができず大変そうでしたが、体調は問題ない様子で安心しました。息子さんご夫妻は、ガソリン不足のため未だに訪問できていないとのこと」(石巻福音自由教会ブログ内「支援活動ブログ」)

 

 2011年以降

津波で流出した施設の事業はキングス・タウンの空き室などで継続した。再建を模索する中、元利用者の親族から「お世話になったので土地を使ってほしい」という申し出を受けた。ドイツの医療人道NGO「フメディカ」からの資金援助も受け、13年には被災事業所三つを移転した「キングス・ビレッジ」を新たに開設。15年には改装した三日町ブランチで訪問看護ステーションを再開した。各サービスの復旧を終え、同法人設立20年を越えた。

10年を振り返り、佐藤さんは「最初の3~4年はまち全体で、『前へ前へ』という雰囲気があった。『震災前に戻すだけではなく、挑戦しよう』と。しかし落ち着いてくると、過疎化、人手不足などいろいろな現実の問題が見えてきた。商業や工場の復旧が優先されたが、震災を機にまちを離れていった人は多い」と話す。

外部から入った業者によってまちの雇用状況が翻弄された時期もあった。「市内の企業で対策し、合同の研修や人材募集などの仕組みを整えて落ち着いてきた。企業の在り方は変わってきた。かつてのようにのほほんとしているだけではなく、しっかり企業の特徴を伝え、アピールしないといけない」と言う。

「新卒の世代は小学校、中学校時代に震災を経験している。彼らの発信力にも期待している。次世代につないでいきたい」と期待する。
一方「『震災を忘れてはいけない』と言われるが、地域の中ではそれだけにしばられて生きるのは不可能」とも話す。「震災を踏まえつつ、それをどう乗り越えてどのように日常を過ごしていくかが大切。10月まで放送していたNHK朝ドラ『おかえりモネ』(気仙沼市が舞台)のエピソードでもあったが、被災した人たちはただ悲しんでいるだけではなく、案外元気で日々過ごしている。カラ元気ではあるが、日々悲しみだけを抱えてはいない。職員の中にも、家や車を無くしたという人もいる。でもみな『わたしはまだましな方』と言いながら歩んできた。そういう10年だったかなと思います」

これからについてこう抱負を述べた。「『夕暮れ時に光がある』(ゼカリヤ14・7)とあるように、ふだんの生活の中で賛美や喜びが満ちた所となることをめざしている。今はコロナ禍でどこも行けないが、毎日ラジオのような館内放送を流して、まちとのつながり、人とのつながりをもてるようにしている。震災当時悲惨な状況をラジオで聞いた。そうではない楽しい情報を、耳で聞いて頭で想像できることを言葉として届けていきたい。家族との面会は限られる中、入居者と多くの時間を接するわたしたちが支えてつないでいきたい。町は変化していくだろうけど、ここで暮らす人は共に生きていく。遠くに住む家族の方々にも安心してもらえるように様々なアプローチをしていきたいと思います」(つづく)

クリスチャン新聞web版掲載記事)