【連載】私の3.11~10年目の証し 高齢化進行、だからこそ良い関係 第四部仙台での一週間⑫
高齢化進行、だからこそ良い関係 私の3.11~10年目の証し 第四部仙台での一週間⑫
「オリーブ」のカフェの様子。千葉さん提供
東日本大震災当時、単立気仙沼聖書バプテスト教会牧師だった千葉仁胤さんは、牧会と支援活動両立の限界を感じ、2012年10月に同教会を退職し「震災復興支援センターオリーブ」(以下「オリーブ」)を立ち上げた。「オリーブ」の活動拠点を気仙沼市に隣接する岩手県一関市室根町に置き、スタッフ3人で続けている。
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10年たって、気仙沼市では高齢化が進んだ。全国の高齢化率は25%ほどだが、気仙沼市は35%だ。震災時の人口は7万4千人、現在では6万2千人にまで減った。10年で1万2千人の減少だ。「若い人は進学や就職で転出する。震災後に訪問を続けている人たちは、ほぼ80歳前後になった。亡くなった人もいる。この2年はコロナ禍で活動が難しくなった。介護施設にいる人は特に訪問できないでいます」
町の復旧で景観は美しくなった。岩手県と宮城県をつなぐ高速道路も開通した。「この道路は震災がなければ完成しなかったと思う。港桟橋付近には新しい都会風な商業施設ができた。若者や観光客向けだが、地元の人が通えるショッピングセンターではないようだ。経済が地盤沈下し、新しい商業施設も利益が上がらず撤退した店も目立つ。そこにコロナ禍が直撃した。復興のための建設補助金返済が2年前から始まった。
しかし返済できずに撤退するところも出てきている。基幹産業の漁業も思わしくないようだ。新船の建造費の高騰、また航海の減便でやり繰りするという。カキなどの養殖漁業は台風や自然の変化で打撃を受けたりもする。自然と共に暮らす難しさを実感する。これが震災後10年の現状です」
「オリーブ」では、災害公営住宅などをまわり、被災者向けのカフェを開き、対話を行っている。「気仙沼で27年牧会してきて思うのは、地域のために存在する教会とは別に、様々な必要に対応する場所(支援センター)があるとよいと感じる。牧師が両方をすることは難しいし疲弊する。いつの時代でも災害に限らず、様々な社会問題、家庭問題がある。そのようなことに対応し、窓口となる支援センターが地域にあって、各教会と協力してやっていけないか。震災後、各地で新しい教会が建てられたが、地域との摩擦も生まれているようだ。地方で存在する信仰者として大事なことは、地域の人々に信頼されるために何が求められるかと考えること」
災害についての基本認識も深めるように勧めた。「自然災害は人間社会を根底からくつがえす大変な出来事だ。この災害をどう受け止めるか、とくに聖書の視点から捉えていかねばと思う。このことに各教会では日頃から学ぶことが必要だ。コロナの問題も同様で、かつてペストなど疫病に教会がどう対応したか、歴史から学んでおきたい。死や病、いのちの問題について教会は常に回答を用意したい。世の中と同じように怖がるだけではいけない。かつては殉教的な思いで取り組んだ人たちもいた。このことを私たちは一つ一つ受け止めていきたい。そのような学びの場をもつことも必要だ。今日の社会問題、自然災害、環境問題を含め、その上で支援体制ができるといい」と話した。
次世代に向けては、「若い人を集めるのにイベントや様々なツールは有効だが、同時に、人間がいかに生きるか、死をどう受け止めるか、病気をどう受け止めるか、生き方の学びの必要を感じる。とりわけ、今の時代それらはとても大事なのではないか」と考えている。
「オリーブ」の支援活動を通して思うのは、人々の背後に多様な問題があることだ。「少子化、高齢化、地方の過疎化に伴う家族の関係性。そういう問題をいかに福音につなげ、示すのかが課題です」
「オリーブ」では、通常スタッフのみで礼拝を持っている。「地域の人々を集会に誘うよりも、こちらから出かけてそれぞれの場で証ししていく方針。また対象が被災者や地域の高齢者ということで親しいつながりがもてる。そのような人たちと関わりが続くことで、普段着の友人関係ができる。一人暮らしでさみしい人は、喜んで家に迎え入れてくれる。『教会に連れて来たい、招きたい』という思いは横に置いて、まず相手と同じ目線に立ち、一人の隣人であり、キリスト者として対すること。それが日本の地方では、大切な要素だと思います」
「オリーブ」は震災後から国内外の教会と個人、一般の団体や友人らの支援で働きが継続されてきた。来年は開設10年を迎えようとしている。被災地支援とともにこの場所で地域への証しを続けていきたいと取り組み中だ。
(つづく)【高橋良知】
(クリスチャン新聞web版掲載記事)
連載各部のリンク
第一部 3組4人にインタビュー(全8回 1月3・10合併号から3月14日号)
第二部 震災で主に出会った (全4回 3月21日号から4月11日号)
第三部 いわきでの一週間 (全16回 4月25日号から8月22日号)