龍ケ崎済生会病院産婦人科医の陳央仁(ちん・おうじん)さん(台湾出身、筑波福音基督教会員)は、茨城県を中心に関東の小学校、中学校、高校の生徒、またその保護者や教師を対象に〝いのちの授業〟と呼ばれる「生教育講演」を行ってきた。4月26日、埼玉県三郷市にある県立三郷高等学校で、全校生徒対象に「自分を生きる~愛し愛されるために~」の題でいのちの授業が開かれた。(5月8日号で一部既報)

キューピー人形を使って胎児の説明をする陳さん

陳さんのいのちの授業の内容は主に〝性〟に関することだが、「生教育講演」と〝生〟の文字を使う。〝性〟とはまさに「生きることを考えること」だからだ。「まず、自分がどれだけ大切なのか、自分らしく生きられているか、それが大事。この授業では、『愛し、愛されるために』を考えていきたい」と話す。
「中学生、高校生の身体は大人だから、セックスしたら間違いなく妊娠する。その後、何が起きるのか。僕も産婦人科として、産みたい人は全力でサポートする。だが、相手の男性が、周りが冷たい。学校も家族も何とか妊娠した子を守りたいが、その全部は守れない。誰も喜んでくれない」
「この時、いちばん無視されているのはお腹の中の赤ちゃん。『お前なんかいなくなればいいのに…』。でも、赤ちゃん何か悪いことしましたか? 時期が悪いと、いちばん悲しい出来事になる」
「皆さんは、親の愛が性を通して生み出した奇跡」と言う。「男性は1回で数億個の精子が出る。その精子は卵子に出会うために3~5日泳ぎ続ける。やっと卵子にたどり着いた時には100個のみ。その中の1個しか受精できない。生命の誕生は年末ジャンボ宝くじ一等賞が当たるより難しい」

胎児の映像。「いのちの授業」サンプル動画から

「今まで5千500人ほどの赤ちゃんを取り上げてきたが、いつも感じるのは、『赤ちゃんは、愛されるために生まれて来たんだな』ということ。この愛がなければ、お母さんは激しい陣痛に耐えられるわけがない。赤ちゃんはもっと大変。狭い産道を通る時に頭がとんがってしまう。皆さんはお母さんと共にすごく頑張って生まれてきたのです」
だが、日本では今、年間15・6万人もの人工妊娠中絶が行われ、若年者が約2割を占めている、性交経験者の多くは性感染症を持っていると伝え、ある15歳の女性のケースを話した。
「彼女は活発で明るく、勉強熱心。週一回アルバイトをしていたが、そこで出会った男子大学生に誘われデートをし、肉体関係を持ったら病気を移された。治療後はコンドームをきちんと使ったが、3か月後に妊娠が発覚。彼氏に伝えたら、突然音信が途絶えた。それでも彼女は生みたかったが連絡も取れず、結婚もできず、親との関係も悪化。仕方なく中絶手術を受けた。彼女は自分を責め、うつになり、学校にも行けなくなり、16年経った今も心療内科に通っている」
「人を好きになるということは素晴らしい。でも、時期を間違えると大変なことになる。皆さんには、互いを高め、守り合い、周りからも応援してもらえるような付き合い方をしてほしいのです」
また、クラジミア、エイズ(HIV)、梅毒などディープキスやセックスによって感染する病気の危険性、予防にはコンドームが有効だが、避妊のためにはピルとの併用が不可欠なども話した。

陳さんの話に熱心に耳を傾ける高校生たち

その上で、「本当の愛は待てる」と語った。 「愛とは相手を大切にし、相手を守ること。欲とは相手を傷つけても自分を満足させること。だから理性による欲のコントロールが必要だ」
「性体験は、本当なら素晴らしい喜びや自由と解放、パートナーとの有意義な信頼関係や安堵感(あんどかん)をもたらすもの。だが、早過ぎるとほとんどの場合、パートナーとのむなしい関係、自己卑下、無気力感、罪悪感をもたらすものなのです」
「トマトの実は、成熟するのに時間がかかる。収穫には旬の時期がある。性も同じ。女性にとって妊娠、出産にいちばんいい時期は26歳だそうです。だから、いい形でその時を迎えてほしい。今はあせらないで、SNSの間違った情報に惑わされないで、ゆっくり、じっくり時間をかけ、互いに大事にできるパートナーを見つけてほしい。人生が壊れないために」と語った。
当日は、一教室で行われているいのちの授業の内容を、オンラインで全教室につなげて行われた。 参加した生徒からは、「いのちは当たり前だと思っていたが、自分は奇跡的に生まれたんだなと、改めていのちの大切さを知った」、「陳先生の話は具体的で分かりやすい。今日聞いた話を思い出して行動したい」などの声が聞かれた。
陳さんを招くきっかけとなった養護教員は「性教育は『ダメだダメだ』から入ることが多いが、陳先生は性は祝福であって、愛と心を伝えてくれるので、何度聞いても感動する。事前にアンケートを取られ、丁寧にやってくださるのも大きい」と語った。
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いのちの授業の動画が、6月中にはいつでもどこでも視聴できるようになる。詳細はNPО法人グッド・サマリタンのフェイスブックページ(https://www.facebook.com/npogoodsamaritan)やYouTubeで検索。

クリスチャン新聞web版掲載記事)