浪江町請戸港から福島第一原発方面(左奥)を望む

 

6月26日から28日まで、福島県沿岸部をめぐった。仙台駅からJR常磐線で南相馬市の原ノ町駅まで1時間20分ほど。「今年いちばんの真夏日」級の日差しを受けて、原町聖書教会へ向かった。

教会手前の丘付近には、大きなグラウンドがある。相馬郡、双葉郡地域で千年以上続くという祭事、相馬野馬追の舞台、雲雀ヶ原だ。甲冑(かっちゅう)姿の騎馬の競走などが繰り広げられる。コロナ禍をへて今年7月、久々に有観客開催された。震災後初めて参加した人もいるとの報道もあった。

教会南側の森は、2016年に避難指示が解除された小高地区へとつながる。震災後には野生化したイノブタ(ブタとイノシシの雑種)が出没した。
「救援や視察がひっきりなしに訪れ、感謝でありつつ、大変だった」と被災地域にある教会の苦悩を同教会石黒實牧師は振り返った。

 

原町聖書教会の礼拝の様子

 

礼拝では、石黒さんの妻で副牧師の素枝さんが司会し、協力牧師の佐藤俊命さんがバイオリンで伴奏していた。3人体制で説教も分担している。賛美歌のほか、長沢崇史さんのワーシップソングなども元気に歌われた。出席者は50~70代が中心。英語教師のつながりで、海外出身者もいる。礼拝後には茶菓を交えたなごやかな時間もあった。

石黒さん夫妻は70代後半になる。長男は北海道で牧会する。「今は年金生活で続いているが、後継者が課題」と話す。

午後は小高伝道所の礼拝に出席した(7月31日号参照)。小高は起業家を集めたまちづくりが活発化している。新しい感覚の飲食店、工芸店、書店、コワーキングスペースなどができている。町の職員と起業家だろうか、空き地を視察したり、打ち合わせをしたりする姿もあった。「競合多いよ」「ニーズはあるか」「〇〇の誘致が決まれば状況が変わる」などの声がもれ聞こえてきた。

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翌日は双葉郡富岡町まで南下した。この日も猛暑日だったが、駅を降りると涼しい風が吹いていた。海が近かった。

小中学校のある道を抜け、警察署横に、メルヘンチックな建物群がある。フェンスには地元スポーツ選手や町のスローガンの横断幕があった。

 

 

この施設は東京電力廃炉資料館だ。
震災後、18年から福島第一原発事故の概要と、廃炉事業の現状を伝える施設となっている。もともとは福島第二原発を広報するための施設であり、視聴覚設備が多くあった。

ワイドなスクリーンがあるホールでは、「事故によって多大なご迷惑とご心配をおかけしています」「おごりと過信があった」という謝罪のトーンで事故の各段階が説明された。

映像を見た後、原子炉の仕組みや、事故が起きた四つの原子炉それぞれの事故状況を確認できる模型を見た。廃炉作業の様子、労働環境、津波対策などの説明があり、原発構内を疑似体験できるスクリーンもあった。

コロナ禍の影響で廃炉作業は遅れたが、原子炉にカバーを付けるなど、様々な準備作業を進め、全原子炉の燃料取り出しは2031年、その他の処置にさらに10~20年かかると見込まれている。

原発事故後に発生した汚染処理水の「海洋放水」については、「処理水についての政府方針」と表現しながら、慎重に説明していた。ALPS(多核種除去設備)で大部分の放射性物質は除去できるが、トリチウムは残るため、水で薄めて放出することになる。これに対して、全国漁業協同組合連合会は風評などを問題視して反対している。7月22日には原子力規制委員会が処理水放出を認可。自治体首長が「事前了解」し、関連工事が始まった。

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資料館を出て南下すると、市民主体の双葉郡情報センター「ふたばいんふぉ」がある。双葉郡8町村の地域情報が所せましと並ぶ。大熊町の福島第一聖書バプテスト教会の一連の書籍も並べられていた。

 

双葉希望キリスト教会

 

富岡駅手前の丘には、震災後開拓された双葉希望キリスト教会の建物がある。宣教師が移住し、牧師就任予定だ。

再び北上し、双葉町の東日本大震災・原子力災害伝承館を訪ねた。高校生の団体が見学にきていた。海側の更地を北上すると、震災遺構浪江町立請戸小学校がある。地震・津波で破損した状態で当時の状況を伝える。

双葉町の伝承館にはかつての原発標語看板も展示

 

震災津波被害の様子を伝える請戸小学校

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10年前はまったく足を踏み入れられなかった地域だったが、帰還、移住、産業振興、廃炉、廃棄物処理、様々なことが同時並行し、少しずつ変化している。6月末に大熊町の一部、8月末には双葉町の一部の「帰還困難区域」が解除される。6、7月には、国、東電旧経営陣の責任追及の裁判判決がそれぞれあった。「復興」の一方で「忘却」の問題がある。様々な伝承施設は事故当時を実感させるが、立場性や伝えきれない部分もあり、報道やノンフィクション、各証言などとも照らし合わせたい。

今年3月の地震被害による電力のひっ迫、燃料高騰、気候変動など、エネルギー利用をめぐって喫緊の課題がある。7月の参院選後、岸田首相は改めて年内9原発の再稼働を宣言した。一方、事故を忘れてはならないことを、原子力規制委は戒める(7月22日東京新聞)。

中央と地方の関係、産業構造の在り方、神から与えられた自然とエネルギーを無駄にしないライフスタイル、といったことに目を向けることは、原発事故の教訓をそれぞれの地域宣教、生き方の証しに生かすことにつながるだろう。【高橋良知】

クリスチャン新聞web版掲載記事)