碓井 真史 新潟青陵大学大学院教授/心理学者

一つの不幸は次の不幸を生む。一人の主婦が破壊的カルト団体に入信し、すべての財産を失い、借金をし、自己破産する。「宗教2世」である子どもは、ネグレクト状態にもなり、寂しい思いをする。本来優秀だったのに、経済的にも恵まれていたはずなのに、思うような進路に進めず、人生に絶望し、ついに元首相殺害容疑で逮捕されることになる。
これは大きく報道されたニュースだが、小さな悲劇は日常的に起きている。ある女の子の母親が、カルト宗教に入った。夫婦仲は険悪になる。娘は母に捨てられないために、必死に母についていく。父親は家を出る。母と二人の生活になる。だが娘も成長し、カルトの問題に気づき脱会する。そうなれば、母は自分の娘であってもサタン扱いだ。この女性は、カルト宗教によって父も母も奪われた。
ある青年は、両親がカルト信者。青年も生まれながらの宗教2世だ。親せきとは疎遠になる。学校に行っても部活もできない。学校の「この世の人」とは遊ぶこともない。彼は熱心な信者として育つ。定時制高校に通いながら、宗教活動を続け、高校卒業後は同じ宗教の青年たちと共同生活をし、アルバイトをしながら日々長時間の伝道活動に励む。彼は今の生活に満足している。しかし、もし疑問を感じて脱会しようとしても、彼にはもう帰る場所がない。
カルト宗教の末端信者は、誠実な善人が多い。たとえば、聖書に関心をもち、現代社会に問題を感じ、良い家庭にしたいと願っているような人たちだ。もしもこの人たちが、私たちの教会に来ていたら、きっと素敵なクリスチャンになっていたに違いない。

悩んでいる「親子」をみんなで支援する

さて、宗教2世とは、一般に「カルトの子」という意味で使われるが、伝統宗教も含めて「特定の信仰・信念を持つ親・家族とその宗教的集団の下で、その教えの影響を受けて育った子ども世代」の意味で使われることもある。クリスチャンホームの子も宗教2世だ。
もちろん、一般の教会とカルトは違う。しかし、信仰熱心な親に強く反発する子どもはいる。敬虔なクリスチャンの子どもとして、周囲からの期待と圧力を感じている子もいるだろう。ある牧師の子どもは言っていた。小さなころから良い子でいて当たり前だった、それがつらかったと。
神は人間を教え導く。しかし同時に、人間に自由を与えている。親子関係も同じだろう。心理学的な研究によれば、幼い子にとっての良い親は、いつも子どもを抱きしめているような親が良い親だ。だが大きくなった子どもにとっての良い親は、子どもから離れて立ち、束縛はせず、そして子どもの幸せを祈り続けている親が良い親だ。祈られている子は強い。私たちの教会にも、悩んでいる子はいるかもしれない。その子を、その親を、みんなで支援していきたい。

クリスチャン新聞web版掲載記事)