【書評】古代の「福音主義神学者」の姿を明らかに 『エイレナイオスの 聖霊神学』評・吉田隆
私がかねてから不思議にそして残念に思うのは、福音主義神学の立場に立って聖霊の働きを大切にするはずの方々が、あまり教会の歴史に興味を示されないことです。
今、私たちイエス・キリストを信じる者に働いておられる聖霊を信じるならば、その同じ聖霊がかつても働いておられた、否、キリスト教会2千年の歴史は(罪深い人間の歴史であると同時に)まさにくすしい聖霊の御業でもあると考えることもできるでしょう。
それは、しかし、とてつもなく大きく豊かで、同時に実に複雑な教会の歴史における働きです。私たちは、古代教会から現代に至るキリスト教の歴史における様々な信仰者・神学者たちの霊性や思想を学ぶことを通して、その痕跡をたどって行くのです。
その意味でも、日本福音主義神学会やキリスト聖書神学校でも活躍されている大庭氏が、このたび古代教父エイレナイオスの神学についての優れた研究書を出版されたことは、大きな喜びでした。
エイレナイオスは、古代教会最大の異端であったグノーシス主義からキリスト教の正統信仰を守っただけでなく、旧新両約聖書を貫く救済史的理解を明らかにした偉大な神学者であり、教会の指導者であり、異説にとらわれた魂の救いのために働いた伝道者です。
本書は、この卓越した教父が、未だ確固とした教理として確立していなかった三位一体、キリストにある救いと信仰者の成熟の関係、そして、この世に存在する悪の問題について、福音的な視点から考え抜いた、まさに古代における福音主義神学者の姿を明らかにしてくれる労作です。
本書は、カトリックの南山大学における学位論文でもあるということですから、ここに福音主義神学とカトリック神学との接点を見ることもできるかもしれません。
大庭氏の一層のご活躍を祈るとともに、古代教会における福音主義信仰の源流を明らかにする研究者が、今後とも現れることを心から期待したいと思います。
(評・吉田隆=神戸改革派神学校)
『エイレナイオスの聖霊神学』
大庭貴宣著、ヨベル 2,530円税込、A5判
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