ロシアのウクライナ侵攻から１年が経つ中、世界の子どもを支援する国際ＮＧОワールド・ビジョン（ＷＶ）とウクライナにおける連携団体「アームズ・オブ・マーシー(Arms of Mercy)」は、ウクライナの子どもたちにインタビュー調査を実施。攻撃性、不安症、薬物乱用の増加など、紛争が子どもたちに色濃く影響を与えていることが明らかになった。
◇　　　◆　　　◇
調査チームは昨年12月にハルキウ、ヘルソン、ドニプロで実施。今年１月にフォローアップ調査とデータ分析を行った。対象は、９歳から17歳の計457人の子どもたちだ。
主な結果は、⑴47％が、家になんらかの被害を受けた、⑵21％の子どもが、彼らの仲間が精神的苦痛に対処するための手段として暴力に走っている、⑶51％の子どもが、彼らの仲間が精神的苦痛に対処するための手段として、喫煙やその他の依存症に陥っている。その傾向は、14〜17歳の男子の間では77％に上昇、⑷
34％の子どもが、暴力の脅威が心配事の一つである、⑸83％の子どもが、身の安全が心配事である、⑹53％の子どもが、移動制限が心配事である、⑺10人に１人（11％）を超える18歳未満の子どもが、自分は不幸または非常に不幸だと感じている、と回答。

この調査結果を受け、ＷＶウクライナ危機対応ディレクターのクリス・パルスキー氏はこう語る。「ウクライナ東部の多くの子どもたちは、平和を切実に必要としている。昨年２月の紛争激化以前から、ウクライナ東部の子どもの約５人に１人が絶え間なく続く暴力、避難生活、家族との離別から生じるストレスに対処するため、喫煙または合成薬物を使用していた。現在、十代の少年の80％近くが、彼らの仲間が何とかやっていくため喫煙やその他の薬物を使用するようになった、と考えていると言う。この事実は、非常に憂慮すべきことだ」
「子どもたちは、すでに抱えているトラウマの上に、さらに上積みされるトラウマに対処するのに苦しんでいる。ウクライナでは150万人以上の子どもたちが、紛争中に受けた被害の結果として、うつ病、不安症、心的外傷後ストレス障害(ＰＴＳＤ)、双極性障害、または統合失調症を発症する可能性があると考えられる。薬物乱用の増加に加え、ますます恐れを抱くようになっており、感情を抑えるのに苦労している。親族が砲撃で傷つき、親が最前線に兵士として送られていることを非常に不正義であると感じ、他者に復讐したいという気持ちを抱いている」
子どもたちが教育をほとんど受けられなくなっている点も指摘。「子どもたちが、日常を過ごせているという感覚を取り戻すことは極めて重要でであり、紛争のすべての当事者は国際人道法および人権法へのコミットメントを尊重し、維持しなければならない。平和がなければ、ウクライナの子どもたちは肉体的だけでなく、精神的にも深刻な犠牲を払い続けることになる」と警鐘を鳴らした。
ＷＶは、紛争勃発直後からウクライナや近隣諸国で支援活動を行っており、 最初の11か月で３万６千人以上の子どもたちとその家族に、早急に必要とされる心理社会的支援を提供。ＷＶとアームズ・オブ・マーシーは、ハルキウ、ドニプロ、ヘルソンほか各地域で子どもたちと協力し、心理社会的支援を実施。子どもたちが安心安全に過ごせる居場所を提供し、食料、衛生用品、暖房などの基本的なニーズにも対応している。
ＷＶは３月以降、支援パートナーのラチョ・ドローム（Lacho Drome）を通じたウクライナの少数民族ロマの人々のコミュニティーを保護するためのプログラムを含む、ウクライナ東部での現金給付支援をさらに拡大する計画をしている。詳細はURLhttps://www.worldvision.jp/news/press/20230221.htmlで。