星出氏「要因となる前史があった」

関東大震災朝鮮人虐殺から100年にあたる今年、地震が発生した9月1日に向けて各地で関連集会が予定されている。7月17日、群馬県みどり市の福音伝道・大間々キリスト教会の会場とオンライン併用で開催された「2023年信州夏期宣教講座エクステンション」(同実行委員会主催)では、星出卓也氏(長老教会・西武柳沢キリスト教会牧師、日本キリスト教協議会〔NCC〕靖国神社問題委員会委員長)が、「関東大震災朝鮮人虐殺・その時教会は」と題して講演した。【中田 朗】

講演者の星出卓也氏

星出氏は、最初にこう語る。「1923年、関東大震災時における朝鮮人虐殺は9月1日のその日に始まり、瞬く間に関東全域に広がり、6千人以上もの朝鮮人が虐殺される事態へと発展していった。だがうわさだけで、何も要因がない中で、そんなに朝鮮人が殺されたわけではなかった。それには、そのことが起こる要因となる前史があった」

その前史として、明治政府による朝鮮半島の植民地支配と、それに対する抵抗運動を挙げる。「明治政府は朝鮮国に対し、武力を背景に『開国』を迫り、1875年に江華島事件を起こしている。事件は日本側の挑発・攻撃によるものだが、明治政府はその責任を朝鮮国に問い、官民保護を名目に軍艦を派遣。条約締結を強要し79年、日朝修好条規を結ばせた。『朝鮮は自主の邦』と認めつつ、釜山など三港を開港し、日本の治外法権を認めるなど、不平等条約と言えるものだった」

「以降、1910年の『併合』に至る前段階から、日本側の圧政に抵抗する義兵戦争が多々起こることとなった。第一次世界大戦後、18年に開かれたパリ講和会議では、ウィルソンの基本講和条件に『民族自決主義』(14条)が含まれたが、そのことに大きく励まされた朝鮮人たちによって19年、三・一独立運動が起こる。一方、日本帝国側は、これらの抵抗運動を徹底して武力で押さえつけ、取り締まる。朝鮮国の側の立場からすれば、武力を背景に自分たちの権利を奪う行為に対し抵抗するのは当然のことだった。だが、それを『反日』『不逞鮮人』呼ばわりし、それが社会秩序を乱す不当な暴動であると評価した。あまりに自国中心的な見方と言える」

朝鮮半島は当時、日本にとっての「利益線」(国境外の地域でありながら、国家の利益を左右する境界線)だったとも言う。「『日韓併合』は、主権国である朝鮮国の実質植民地化だが、『植民地化』の言葉は使われず、『国防のため』と強調される。この利益線を奪われると日本の国益が危うくなるという恐れだ。日本側の理論では、朝鮮半島は日本を守る生命線を死守することだが、土地、生活の術を奪われ、国や主権を失う朝鮮民衆の痛み悲しみは全く視野に入っていない」

そんな中、関東大震災が発生。「日本に強制連行された朝鮮人労働者も、抵抗運動を起こすのではないかという恐れから、『朝鮮人が井戸に毒を入れた』などの流言飛語が広がった。流言の出所は、軍や警察そして民衆。抵抗運動に猜疑心(さいぎしん)を持つ軍・警察・民衆からまたたくまに殺意が広がった。ガソリンがまかれたところに、引火していくようなものだった」

では、当時のキリスト者の反応はどうだったか。星出氏は植村正久と内村鑑三の例を挙げた。「植村は、関東大震災を受けて『神の業の顕れんためなり』という文章を書いているが、朝鮮人虐殺事件には全く言及がない。内村の日記を見ると、9月1日以降に関東大震災について触れているが、夜警団や軍隊に感謝の意を表すものの、朝鮮人虐殺には触れていない。自警団から朝鮮人をかくまおうとした事例はあったが、点に留まり広がりが見られない。現代でも『反日』という言葉がクリスチャンの中からも聞かれることもある。その時に違う視点に立てるかどうかが問われる」と語った。星出氏の講演はYouTube(URL: https://www.youtube.com/watch?v=bD1PS60hBWE )で視聴できる。

8月21、22日には、「第30回信州夏期宣教講座」(長野県上田市、鹿教湯温泉鹿乃屋)が開催される。テーマは「関東大震災から100年~虐殺のとき、教会はなにをしていたのか?~」。

2023年07月30日号 01面掲載記事)

 

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