ジャンフランコ・ロージ監督
1964年、エリトリア国アスマラ生まれ。イタリアとアメリカの国籍を持つ。日本での劇場公開作品は、ヴェネチア国際映画祭金獅子賞を受賞した『ローマ環状線、めぐりゆく人生たち』(2013年製作)。以後、ランペドゥーサ島の住人や漁師、移民の物語『海は燃えている~イタリア最南端の小さな島~』(2016年、ベルリン国際映画祭で金熊賞受賞)、ヴェネチア国際映画祭ユニセフ賞ほか3賞受賞の『国境の夜想曲』(2020年)がある。『旅するローマ教皇』は、ヴェネチア国際映画祭アウト・オブ・コンペティション部門に正式出品。23年5月に開催されたイタリア映画祭(東京)でも本作が特別上映された。

映画「旅するローマ教皇」
19年には38年ぶりの教皇来日

2013年にローマ・カトリック教会266代教皇に着座したフランシスコ。以来、22年までの9年間に37回の旅をして53か国を巡り司牧と布教行脚する姿を追ったドキュメンタリー映画「旅するローマ教皇」が10月6日(金)より公開される。教皇側から本作制作の話を受け、500時間に及ぶ資料映像の提供、マルタ島とカナダへの2回の旅に同行取材したジャンフランコ・ロージ監督に話しを聞いた。【遠山清一】

 ↓ 映画「旅するローマ教皇」レビュー記事 ↓ ↓
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◆町へ出向いて司牧する “庶民派教皇”

「旅は、フランシスコの人間を浮かび上がらせます。教皇自信が人々のもとに足を運び、彼らの住む場所で会い、彼らの生活や苦悩を直接学ぶのです」という監督は、旅程の時系列を尊重しながら、街や刑務所そして飛行機内での記者会見などで語る連帯と尊厳、貧困と難民問題、戦争を非難するメッセージなどのテーマを整理している。19年には、教皇ヨハネ・パウロⅡから38年ぶりに来日し、広島・長崎を訪問している。だが、ミサのシーンはあるが、日本で語られたメッセージは本編に無かった意図を尋ねた。

「教皇は、武器売買や核兵器使用の危機、ウクライナ戦争についても他の地域で語っています。ですから、広島・長崎では、語られる言葉よりも(ミサの映像での)沈黙の方が強く伝えられるのではないかと感じたのです。広島・長崎では原爆投下の記録映像を使いました。使うかどうか迷いましたが、忘れてはいけないのです、起きたことですから。改めて思い出してほしかった。(ミサの映像)のすぐ後に月食の映像を使いましたが、またこの世の中に暗闇が戻ってくるという“影”を感じさせるシーンです。

政治性、希望、人類の敗北
多彩な意味を放つ教皇の言葉

本編ではバチカン市国元首である政治家フランシスコの情況も描かれる。

イタリア・ランペドゥーサ島の島民、漂着した難民に、「夢見ることを続けよう」と励ます教皇フランシスコ。

「この映画自体が、ある種、政治性を帯びた作品だと思っています。本編の冒頭、ランペドゥーサ島に向かう難民船が嵐に遭い、船の位置を確認する無線交信するシーンから始まります。あなたはどこにいるのか?、この映画の始まり自体が、世界がひっくり返った情況からです。そして教皇がはじめに語るのは『夢を見ることを続けてほしい』と。尊厳について、国民について、難民について、戦争について語られる時も、とても政治性が強い。つまり、宗教的な人物の視点から政治性の強い映画です。」

「同時に、希望について、世界を変えようとしている人がいるのだ、という希望の映画でもある。」

「(島に漂着した難民や島の住民に)“夢を”という言葉で始まり、最後は“祈り”で映画は終わります。本編で、お祈りするのは、マルタ島でのシークエンだけです。『主よ。戦う我らを赦し給え。どうかカインの手を阻み給え。我らの良心を照らし給え。…我らを止め給え。主よお願いです』と。希望の映画であり、同時に、人類の敗北の映画だとも思います」。

映画「旅するローマ教皇」は、10月6日よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、新宿武蔵野館ほか全国順次公開。 (本稿は、本紙10月1日号2面掲載のインタビュー記事に補筆)

映画「旅するローマ教皇」は、2023年10月6日[金]よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、新宿武蔵野館ほかで全国巡行ロードショー。
公式サイト https://www.bitters.co.jp/tabisuru/
公式Twitter https://twitter.com/Rosimovie_jp