ジョン・レノン&プラスティック・オノ・バンドはこのフェスティバルが初ライブ (C)ROCK N’ ROLL DOCUMENTARY PRODUCTIONS INC., TORONTO RNR REVIVAL PRODUCTIONS INC., CAPA PRESSE (LES FILMS A CINQ) 2022

アポロ11号が人類初の有人月面着陸に成功(7月)、3日間で40万人がニューヨーク州アルスター郡の酪農農場に集まったウッドストック・フェスティバルなど1969年はエキサイティングなトピックスが多いなか、本作はロックンロールからロックへの稜線を描いたエポックメイキングなドキュメンタリー。22歳という若い二人のプロデューサーが、ロックンロールの大御所チャック・ベリーから当時人気絶頂期のドアーズ、ライブから遠ざかっていたジョイン・レノンをヘッドライナーに引っ張り出そうとする。イベントが結実するまでの紆余曲折、多難な出来事に振り回される舞台裏を回想する。何やかやと起こるインシデントがクリアーされていく展開は、望んでいることを確信して進むことの力強さを思わされる。

イベント企画から実現まで
多難な過程は小説より奇なり

1969年の夏。カナダ・トロントのバーシティスタジアムで大きなポップ・フェスティバルが開催された。スライザ&ザ・ファミリーストン、チャック・ベリー、ザ・バンド、ステッペンウルフなど25組のアーティストたちが2日間にわたってオーディエンスを盛り上げた。このイベントをプロモーションした若干22歳のジョン・ブラウワーとケン・ウォーカーは、大成功に気を良くし9月にフォローアップ公演の開催を計画。フェスティバルで大好評だったチャック・ベリーにインスピレーションを得た二人は、リトル・リチャードはもちろんジェリー・リー・ルイス、ボ・ディドリー、ジーン・ヴィンセントらロックン・ロール草創期のレジェンドオンステージにチャレンジする。’50年代末には衰退していたロックンロールからブルース・ロック、フォーク・ロック、サイケデリック・ロックやプロウレシヴ・ロックなど多彩なジャンルへ発展している。そのロックの源流を復活させようと“トロント・ロックンロール・リバイバル・フェスティバル”へ次々と大御所たちの出演受諾を取り付けていく。

だが、チケットの売れ行きが悪い。ブラウワーは、さすがに重鎮の出演だけでは難しいと判断する。若手のアーティストでは、ジーン・ヴィンセントのバックバンドも務めるアリス・クーパーや決まっているぐらい。“ポーク・サラダ・アニー”がヒットしているシンガーソングライターのトニー・ジョー・ホワイト、ブラス・ロックを拓いていくシカゴなどがブラウワーのオファーに応え、チャック・ベリーらと同じステージに立てることに胸躍らせる。ブラウワーは加えて絶頂期にあったドアーズにも交渉する。提示されたギャラは2万ドル。相方のケン・ウォーカーは、高額なギャラに出し渋ったため、ブラウワーはカナダで最古のバイカークラブ「バガボンズ」のリーダー、エッジョー・レスリーに借金する。ラジオDJの協力、新聞広告を打ってもチケットの販売にはつながらなかった。

ロックンロール創始者の一人で「ロックの伝説」とも称されたチャック・ベリーは終始穏やかな表情でギターヒーローの情熱をパフォーマンスする。 (C)ROCK N’ ROLL DOCUMENTARY PRODUCTIONS INC., TORONTO RNR REVIVAL PRODUCTIONS INC., CAPA PRESSE (LES FILMS A CINQ) 2022

9月13日の公演1週間前になってもチケット販売は2000枚程度。バーシティスタジアムは2万人収容可能。9000枚以上売れないと赤字。破産どころではない危機的情況頭を抱えるブラウワー。相談相手のラジオDJから紹介された音楽プロデューサーのキム・フォーリーは、チャック・ベリーとリトル・リチャードが出演するならジョン・レノンに連絡しろ、レノンは二人のファンだぞと提案する。一面識もないレノンがオファーに応じるだろうか。不安を抱えながらもブラウワーは、ロンドンのレノンに電話する決心をする…。

’50~’60年代のロックフェスタに
今日の多彩なロックへの分水嶺を観る

ウッドストックから1ヶ月後に開催された“トロント・ロックンロール・リバイバル・フェスティバル”。公演1週間前になってジョン・レノンにオファーし、プラスティック・オノ・バンド(概念的なバンドでメンバーの固定はない。この時はジョン・レノン&オノ・ヨーコ、エリック・クラプトン、クラウス・ファアマン、アラン・ホワイト)の初ライブステージを実現させるまでの展開は、先行きが全く見えないカオスな情況。しかも、ライブ当日の朝、まだロンドンにいるレノンが、トロントに行く気分ではないと言い出すドッキリ。着想からオンライブまで、小説よりも複雑怪奇な事実が語られていくのは、驚きを超えて笑かされる。

12時間盛り上がったライブの映像は、ごく一部で物足りない向きもある。だが、チェック・ベリー、リトル・リチャード、ジェリー・リー・ルイスらロックンロール草創期を築き上げた高嶺のパフォーマンスは、山々の稜線のみごとさに魅せられていく。リトル・リチャードは、飛行機事故の危機から脱した直後の’58年にロックを“サタンの音楽”として退けて、一度を引退して大学で神学を修め牧師になった経験を持つが、’62年にロック界に復帰。このフェスティバルでのパフォーマンスに、ドアーズのジム・モリソンは「あの後は演(や)りずらい」とつぶやいている。21世紀を迎えた現在、ロックは多種多彩なジャンルを生み出し教会でも神をワーシップしプレイズしている。日本の教会でもゴスペルとともにロックの賛美集会が開かれ、日本にヘヴィメタル・チャーチ教会を作りたいというヴィジョンを掲げるロックバンドも出現している。大きなスタジアムや酪農農場でロックフェスティバルが開かれ、愛と平和がアピールされた’69年。この「リバイバル69 ~伝説のロックフェス」のドキュメンタリーは、今日の多彩なロック音楽シーンの豊かさを観ることができる分水嶺のようにも想える。 【遠山清一】

監督:ロン・チャップマン 2022年/99分/カナダ=フランス/英語/映倫:G/ドキュメンタリー/原題:Revival69: The Concert That Rocked the World 配給:STAR CHANNEL MOVIES 2023年10月6日[金]よりヒューマントラストシネマ渋谷、角川シネマ有楽町ほか全国ロードショー。
公式サイト https://revival69-movie.com/
X/twitter https://twitter.com/STAR_CH_MOVIES

*AWARD*
2023年:SXSW映画祭2023正式出品。