特 集

「牧師夫人」を考える①

 

自分は何者なのかと戸惑う牧師妻たち

牧師夫人。男性牧師の妻を指す言葉として長年キリスト教界で使われてきた呼称だ。各教団、各教会、また年代によってもその捉え方に違いがあるだろうか。立場が明確な牧師に比べ、学びや交わりの機会が少なく、孤独を感じている女性たちも多いと聞く。そのような声を受けて、超教派の「女性ミニストリーワーカーリトリート」が開催されるなど(8月13日号既報)問題意識が高まりつつある。本紙では、当事者たちへのアンケートを実施。その実情を探った。

 

一般信徒? 夫(教職)と一心同体? 私は何者?
曖昧な役割 戸惑う牧師の妻たち

夫が牧師の女性、いわゆる「牧師夫人」。牧師の妻は一般信徒なのか、夫(教職)と一心同体の何か特別な役割をもつものなのか。所属団体や各教会によって捉え方に違いがあり、自分は何者であるのかと迷い悩む声も聞こえてくる。本紙ではまず、当事者たちがその自分の置かれた立場や役割、環境についてどう考え、また何を課題としているのかを明らかにするため、アンケート調査を行った。回答期間は2週間ほどの短い期間であったが、30代から60代、9つの教団・教派と単立教会に属する女性たちからの回答があった。本人が教職者であるかないかなど、ひとくくりにはできない彼女たちの本音を聞きつつ、これからの日本の教会のあり方を探ってみたい。

 

◆「牧師夫人」は性差別?

多くの教団教派所属の方からの回答を得たため、もちろん「牧師夫人」などという役割・立場もなく、シンプルに牧師と結婚した一信徒、という意識の方もいる。
「『牧師夫人、牧師の妻』という言葉を使うことで、牧師の配偶者をすでに牧師の付属物としてテーマに取り上げていることに疑問を感じる」(INさん、30代、牧師妻歴10年未満)という声も。このアンケートとは別に、以前SNSで見かけたハンドルネームに「牧師夫人は性差別」というものがあり、はっとしたことを思い出す。
しかし、もちろん、当特集で牧師の妻たちを牧師の(男性の)付属物として考えているわけではない。むしろ、長年もしかしたら、そのように考えられていたかもしれない日本のキリスト教界の現状を見つめつつ、本来の牧師夫妻のあり方、教会のあり方を考えたいと思うのだ。

 

◆明文化されず期待されている役割

設問①に現れているのは、多くの教会で牧師の妻には明文化されていないものの、その役割、仕事があるということだろう。設問③の回答を見ると、実に多種多様な役割を、時には喜んで、時には疑問を感じ戸惑いつつ行っている様子が見える。
「牧師の妻だから、欠かさず礼拝に出席している。神様が私をつなぎとめようとしてくださっている。恵みだ」(オートミールさん、40代、牧師妻歴10年~)という前向きな意見ももちろんある。
前任者が担っていたから、後任にもその役割を「当然」と求める場合もあり、特に大人数のための食事作りや信徒との密なコミュニケーションなど、それらを不得手とする方にとっては過度な負担、苦痛となっていることもあるようだ。通信手段の発達により、対面で会う礼拝などの集会時以外にも、昼夜問わず連絡が来ることによりストレスを感じている人もいる。
牧師より話しやすい、または牧師と連絡が取れないからと伝達係を頼まれることもあれば、教会の事務的な役割を一手に引き受けている場合もある。
みんさん(50代、牧師妻歴10年未満)は「着任した時、夫が総会で『牧師の妻でなく、私の妻です』と言ってくれて、かなり立場は守られていると思います」と言う。牧師の妻、牧師夫人という言葉はひいては教会の妻、みんなの母親役、そんな教会員の意識も見え隠れする言葉なのかもしれない。
ベーグルさん(40代、牧師妻歴10年未満)も牧師の妻だからといって、何か自分が特別だとは考えていない。「夫には、牧師夫人としての働きを期待していない、あくまで自分の妻でと言われ、赴任前に教会の了承も得たはずなのに、一部の信徒から牧師夫人としての仕事を求められ、できないでいると、『牧師夫人が未熟だから教育・指導を』と言われたことが納得いかない」
妻として、親として、家族として見本であらねばならぬという、いい意味での緊張感を感じるという声もあれば、やはりそれが過度なプレッシャーになるという声も。居住スペースの関係でプライバシーが確保しづらい現状も見えてくる。

 

◆職位の有無と満足感

設問⑥を見ると、神学校などで学んでいても職位がない方、設問⑦を見ると、職位があっても報酬がない方がいることがわかる。女性教職を認めない、または一定以上の立場を認めない教団教派がある影響か。
設問④を見ると、職位をもち、明確な立場、役割をもっている方の満足度は比較的高く、職位がない方の満足度は割れた。
結婚後しばらくしてから教職の立場を得たAKさん(50代、牧師妻歴20年~)は、「教職者として立ってからは、自分自身も、他者との関わりにおいても葛藤する場面が減った」と語る。一方、まふぃんさん(40代、牧師妻歴10年~)は、「牧師夫人になりたての頃は役職がほしかった。教会員の私への扱いが夫に比べずさんだったのでつらかった。でも今は公式に要求されていない奉仕は応える義務はないし、あくまで一信徒として、できる範囲で奉仕し、信徒としてのロールモデルとなろうと思ってから、とても楽になり満足している」という。
日本の小さな教会から海外の比較的大きな教会へと働きの場を変えた匿名さん(40代、牧師妻歴10年未満)は、「牧師夫人は立場が明確ではなく、それでいて牧師と一体であるという立場はあやふやで、迷う。今は大きな教会で交わりと教育があるが、日本ではなかったので、日本の牧師夫人は気の毒」と語った。

 

次回紹介のアンケート項目

⑧悩みを話せる人はいますか?
⑨夫に望んでいることはありますか?
⑩教会・教団教派に望んでいることはありますか?
⑪その他、このテーマについて自由にお書きください。

 次回(11月12日号)も引き続き、アンケートの結果を紹介します。今後も牧師の妻、いわゆる「牧師夫人」のあり方について考えていきたいと考えています。このテーマに関するご意見・情報を、以下のリンクからアクセスしてお寄せください。
【フォーカス・オン アンケート】

(次回に続く)

2023年10月22日号 04面掲載記事)

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