ひきこもりの人の居場所づくりを ロザリン・ヨンさん
NPO法人光希屋(家)代表 秋田大学大学院医学系研究科助教
利用者が〝ふらっと〟来られ、同じ目線で交流できるカフェ
「ふらっと」は、利用者が〝ふらっと〟来られる、お互いの立場や違いを認め合い同じフラットな目線で交流できる、そんな居場所を目指す。お茶やコーヒー、お菓子を常に用意しており、入退室は自由。曜日によっては、音楽の日(ギターなど)や創作の日(料理や編み物など)、のんびりの日、おしゃべりの日などを設けている。利用者には、かつてひきこもりの当事者だったピアスタッフが対応している。
「ひきこもりの人は通常のレールから外れているように見えるかもしれないが、私の見解では、単純に人生の途中で立ち止まっているように思える。理由は様々で、『疲れ』『迷い』『どうすればいいか分からない』という気持ち、一部の人には『ずる休み』の気持ちもあるかもしれない。期間は人によって異なり、一部の人は立ち止まる時間が短く、他の人は長いかもしれない。しかし、疲れが癒え、迷いが解け、決意が固まり、興味を持つことがあれば、再び前進しようとする。その時に私たちのサポートと応援が大切です」
そんなロザリンさんも、かつては当事者だった。小中学生の頃はいじめに遭い、自殺を考えることもあった。高校生になるとひきこもりの傾向が強まり、大学生の時は半年内で祖父母、叔父が亡くなり、そのことがきっかけでひきこもりに。社会人1年目の時には、先輩からのいじめ、父の事故死などが重なって、ひどいうつ状態に陥った。
布団をかぶって泣いていると3回「大丈夫」という声が
一方、六十歳の時にクリスチャンになっていた父の信仰について知ったことで、この時期に信仰を持った。「六十八歳で亡くなったあの頑固な父がなぜクリスチャンになったのか、父が歩んだ道を歩んでみたくなり、父が使っていた聖書を開いてみた。そしたら、たくさん線が引いてあったのです」。そして、「すべて疲れた人、重荷を負っている人はわたしのもとに来なさい。わたしがあなたがたを休ませてあげよう」(マタイ11・28)の御言葉が目に留まった。「この言葉がピッタリ合いました。強がらなくていい、ありのままでいい、と」
またある日、布団をかぶって泣いていた時に、3回「大丈夫!」という声を聞いた。「不思議と癒やしの力がある言葉で、その声を聞いてぐっすり眠ることができた。あれは、神様の『小さな声』だったと信じています」。このような経験を通して、ロザリンさんは神様を信じるようになった。
ひきこもりは一時的状態 恥ずかしいことではない
ロザリンさんは、2004年頃から「日本のために祈りなさい」との神様からの語りかけを感じていた。それを確かめるため05年に21日間、日本を旅行。そこで初めてひきこもりの当事者と出会った。06年に仕事を辞め、香港大学の公衆衛生学講座の修士課程に進学し、ひきこもりの研究を開始。10年、東京大学大学院医学系研究科の精神保健学の博士課程に進学。東大に在籍中、秋田の自殺予防の取り組みを学ぶため、頻繁に秋田を訪れた。13年、博士号を取得し、秋田でひきこもりの支援に従事することを決意。ひきこもりや不登校の人たちのための居場所を作ろうと思い立ち、大曲ルーテル同胞教会の片桐進牧師に相談した。片桐氏は、畳屋をしていたある教会の長老が亡くなり、その畳屋が空店舗であると伝えた。その場所をカフェにと、13年に「ふらっと」をオープン。以後、10年がたった。「最初の年は多くの人が見学に訪れ、約350人の利用者がいた。この10年間でのべ6千582人が利用している。利用者の中には、外出を一切しないひきこもりから、外に出かけることが好きな人まで様々な人がいる。本人・家族もいれば、支援機関の関係者もいます」
「ふらっと」では、支援される人が支援する人になることを目指す。「ひきこもりは単なる病気ではなく、一時的な状態で、決して恥ずかしいことではない。大切な人がひきこもり状態になった時、『病気』『性格』と簡単にくくらないでほしい。何があり、どんな思いを抱えているのか理解することが問題解決の第一歩となる。ポジティブな言葉をかけてあげ、必要なリソースとアドバイスを与えて、本人と一緒に一つ一つ絡んだ糸を解いていくことが大切なのです」と語った。
ウェブサイトURLhttps://h4j-hikikomori.blogspot.com/【中田 朗】
(2023年11月19日号 08面掲載記事)