「素朴だけど大切なこと」

児玉一郎牧師

宮崎県児湯郡(こゆぐん)高鍋町を地図で調べると宮崎県の真ん中あたり、海がすぐそばにある町だ。過疎が進んでいて町の人口は2万人を切っている。しかし自然が豊かでアカウミガメの産卵地であり、天然のカキの産地でもある。また最近はサーフィンが盛んでそれを理由に移住する人もいるようだ。小さな町だが教会は3軒ある。日本キリスト教団とカトリック教会、そしてここ、日本バプテスト連盟の高鍋伝道所だ。1977年に日本バプテスト児湯キリスト教会の伝道所として発足した。

児玉一郎さんは3代目の牧師。日本バプテスト連盟の神学校を卒業後、北九州キリスト教会で6年間働いた。その間、母親の介護で実家のある高鍋と北九州を往復する日々が約3年続く。片道、車で4時間、往復8時間。

「移動がかなり大変で。当時の高鍋伝道所は高齢の牧師が辞めて8年間牧師が不在でした。それで僕が家のこともあるし、ここに行きたいと手を挙げたのです」。そうして2018年に児玉さんが赴任した。

児玉さんの生まれは宮崎県。熱心な仏教徒の家で育つ。
「この世に変わらないものがあるのではないか、といろいろな本を読みました。仏教の教えも人の考えだから違うと思っていました。ある時、妻から聖書を勧められました。神が天地を創造した、と書かれていて、神なら出来るよなと思ったことがクリスチャンになるきっかけです」

教会に行き始め、妻のチヅ子さんと一緒に洗礼を受けた。社会人として55歳まで建材メーカーで働いた。その後聖書を神学的に捉えてみようと神学校へ入学。在学中に東日本大震災が起きた。
転勤で仙台に住んでいたことがあり、土地勘もあるのでボランティアとして被災地へ行く。「何もなくなった石巻を見て『なんということをするんだ』と神に訴えました。その時『全てなくなったここから一つ一つ築き上げねばならない』という答えがありました。そして自分がこれまで勉強してきたみことばで立つしかない、と思わされたのです」
この時、本当の信仰を与えられたと感じた。人々が霊的にわかりやすく聖書を読めるようにすることが牧師の役目だと思い、その道へ進むことになる。

73歳の牧師が最年少 互いに支え合い

礼拝の様子

高鍋伝道所の礼拝には児玉さん夫妻と90歳と85歳の女性、時々児玉さんの息子さんが参加する。高齢の女性二人は元気で、いつも教会に花を生けてくれる。
月始めに一度協議会で、礼拝の奏楽や当番を決めている。奏楽はチヅ子さんがオカリナ、90歳の女性がオルガン、児玉さんがギター。交代で担当している。

「わたしたちは親子以上、友達以上の関係。家族を超えたような存在です。互いに必要としているから支え合っているのです」
説教には必ずキリストの十字架での死と復活を入れる。40日後天に上がられ、聖霊を与えられたことも。「他のことはなくてもこれだけは大切にしている」と言う。
「たくさんの人に伝えたいという気持ちですが、今はこのメンバーで礼拝をしています。月に一度、友人のピアノの先生が奏楽の応援に来てくれます。いつもいない人が来てくれることがとても嬉(うれ)しい。初めまして、と入ってくる人がいたらもっと嬉しい」
求道者を、次世代を担う人をたくさん与えてほしいと日々祈っている。

困難があるとすれば、やはり少子高齢化のこと。働く人も少ない地域で将来を考えると不安にもなるが、壁にぶつかったら原点に帰ろうと思っている。福音をわかりやすく伝えること、それが使命だ。

児玉さんは平日、アルバイトをして働いている。だから夜などの空いている時間に説教を作る。
「僕はいま73歳。でもこの教会では最年少なのです。クリスマスのイルミネーションを飾ったり、力仕事なども僕の役目。もう一人か二人、一緒に働いてくれる人がいれば最高に幸せです。あとは、そのような人たちと聖書について互いに話し合いたい。この箇所をどう思うかとか、あなたは何を必要としているか、とか語り合えたらいいなあと」
高鍋伝道所はあと3年で設立30周年。そこまでは頑張らせて、と神様にお願いしているところ、、、、、、(田口祐子)


高鍋伝道所会堂外観

2024年03月24・31日号 08面掲載記事)