シシリー・ソンダース先生

―セント・クリストファーホスピス創設者―

淀川キリスト教病院で末期がん患者さんのケアを続けているうちに、イギリスのホスピスで研修をしたいとの思いが強くなった。研修先として、近代ホスピスの第一号であるロンドン郊外にあるセント・クリストファーホスピスが頭に浮かんだ。早速、ホスピス長のシシリー・ソンダース先生に研修希望の手紙を書いた。その返事はとてもショックなものであった。「これまで、何度か日本人の研修者を受け入れたが、英語でのコミュニケーションが取りづらく、日本人の研修はお断りすることにしている」というものであった。一瞬困惑したが、私はすぐに返信した。「私は、アメリカの大学病院で3年間、精神科のレジデントをした経験があるので、英語でのコミュニケーションは可能だと思います。なんとか研修させていただけないでしょうか」と。するとすぐに「受け入れOK」の返事が来た。嬉しかった。1979年のことであった。
二週間という短い研修であったが、実に多くのことを学ぶことができた。
そのホスピスでは、すべてのことが患者さん中心に進められていることを実感した。ホスピスに着いたとき、まず目に入ってきたのはユニークな病棟の形であった。とても大きな窓がジグザクに並んでいた。その理由を尋ねると、「太陽がどの方向に行っても、病室のどこかに太陽の光が差し込んでいるように」という心遣いからであるとのことであった。
廊下の壁に印象的な写真がかけてあった。トラックの荷台に、檻に入った子象とそれを見て笑っている患者の写真である。患者は動物園の飼育係で、毎日、写真の子象の世話をしていたとのこと。患者は自分が弱り、死が近いことを感じるようになったとき、ナースに「死ぬまでにもう一度子象に会いたい」と言った。ケアチームで話し合いがもたれた。結論は、「動物園に事情を説明し、車に子象を乗せて、ホスピスまで運んで来てもらう」ということであった。幸いなことに、動物園側はその願いを受け入れてくれ、患者はホスピスで子象に会うことができたのである。
ソンダース先生は、2005年7月14日、87歳で天に召された。ご自分のホスピスでの静かな最期だった。葬儀の司式をした牧師が、博士の「I did not found hospice. Hospice found me」という言葉を紹介され、、、、、、、

2024年05月05日号 03面掲載記事)

ソンダース先生と筆者