【レビュー】『旧約聖書ガイドブック』『教育のモデルとしての旧約聖書』『リベラルアーツの森で育まれ』
旧約聖書全体を理解するには『旧約聖書ガイドブック 三十九巻それぞれを読むために』(鎌野直人著、いのちのことば社、2千860円税込、A5判)が役立つ。聖書学の最新知見を踏まえつつ、教会の祈祷会や教会学校の教案、研修などで用いられたテキストをまとめたものとなっている。「自分たちが加えられた神の民がどのような歴史を経てきたかを知ることができる」として、異邦人キリスト者にとって旧約聖書は「キリストが与えた賜物」と言う。聖書記述に沿って各書を解説し、聖書全体の物語の中での位置づけ、教会史の中での受容についても簡潔にまとめる。著者も『聖書の輪郭』同様、帰納的聖書研究法によって「一書全体を概観する」土台を持つ。
旧約はその内容とその形成のプロセス両方において教育への手引きであることを『人を育むみことば 教育のモデルとしての旧約聖書』(W・ブルッゲマン著、宮本あかり訳、日本キリスト教団出版局、3千960円税込、A5判)は示す。ユダヤ教の伝統的な配列による律法、預言書、諸書という聖書の三部分の在り方に注目。律法は共通認識を大切にし、預言は硬直化を打ち砕き、諸書は経験世界の中で倫理的実践につながる識別を導く。これら相互の緊張感をもって一つにとらえられる必要がある。本書では三部分それぞれについて聖書をひもときながら解説し、最後にそれらを統合するために詩篇を読み解き、「従順」という視点でまとめる。人間の教育の限界も指摘し、「神にはできる」と励ます。
戦後のキリスト教教育および教育界全体に対して、リベラルアーツの実践で存在感を示してきた国際基督教大学(ICU)。卒業生には伝道者、キリスト教団体・教育関係で活躍してきた人々も多い。卒業生70人以上の証言による『われら主の僕 リベラルアーツの森で育まれ』(ICU伝道献身者の会編、新教出版社、2千310円税込、A5判)はICUのキリスト教的土台とその幅の広さを表わす。
入学時には、様々な宗教、教派背景をもった人々が集うが、教員、教育体制、同級生らに触れ、キリスト教理解を深めていく。「リベラル」を警戒する福音派出身者だけではなく、身辺での経験にとどまっていた主流派出身者にとっても、ICUはキリスト教の視野を広げる場所だった。卒業後のかかわりを通しても知見を広げる様子がうかがえた。寄稿の中には教派について挑戦的な内容のものや、対話の拒否を悲しむもの、など様々な声があるが、「〝リベラル〟というのは政治的に左ということではなく、〝対話的ということ〟」という全体的な基調がある。戦争の敵対関係をこえて米国と日本のクリスチャンが協力して創立されたICUの和解のルーツも強調される。
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