4人に1人が、75歳以上…。人類史が経験したことのない「超高齢社会」に日本は向かう。従来の人生観、人間観が根本的に問われる。日本福音同盟(JEA)神学委員会は、教会と宣教の視点から、論考集『流れ行く時の中で〜年齢を重ねることの神学的意味』を6月に発行した(電子版のみ。JEAホームページURLjeanet.orgからダウンロード可)。

同委員8人が、社会的データや評論、近年の神学論文などを参照し、教理、釈義から「老い」の意味を考察し、教会での実践を勧める。豊富な参考資料やアイデアも盛り込まれた百頁超の充実した内容だ。

川嶋直行氏(JEA理事、イムマヌエル綜合伝道団)は、「右肩上がりの『経済成長信仰』は崩壊し、それに代わる価値や土台を見いだせずにいる」日本だが、「宣教の好機」と捉える。

赤坂泉氏(JEA神学委員長[発行当時]、聖書神学舎)は、政府機関や研究所の調査の概要を紹介し、不安や少子高齢化、労働、社会保障などの諸問題を抽出した。「人間の本質、人間の価値、人間の使命を正しく理解することなしには、現象を追い回すだけの、モグラ叩きのような対応に終始するほかない」と指摘し、本論考集の意義を強調した。

現JEA神学委員長の國重潔志氏(イムマヌエル聖宣神学院)は、高度成長期を支えた「功利主義」や、「安定した社会に自身を任せておけば良い」という「日本的集団主義」が宣教の壁になっていたことを指摘。経済が減退し、「集団を信じて従っても良い結果を期待できないのではという不安が広まるときこそ、 真に頼るべき方は神であるというメッセージが、これまで以上にリアリティをもって迫る」と言う。

安井聖氏(東京聖書学院)は、4世紀の教父アタナシオスの「神化論」に注目した。老いを経験する時にも、「キリスト者は『ホモ・リトゥルギクス(神礼拝に生きる人間)』という神化された霊性に生きることができる」と励ます。

齋藤五十三氏(東京基督教大学)は、霊・肉や霊・魂・肉などの伝統的区分よりも、人間を統一的な存在としてみる「一元的理解」が現代は優勢になっている状況を確認。しかし「『神との接点』が捨象されてしまっている」と問題提起し、聖霊論、教会論に視野を広げた。

田村将氏(聖書神学舎)はダニエル7章9、10節の「年を経た方」の語を考察した。「単純な加齢や老いという概念」ではなく、「きよさや神が聖であられることなど、神の栄光に関する事柄に結びつく内容」と解説。「老い」について「時代の証し人としての役割と権威」の意義を再認識した。

山﨑ランサム和彦氏(聖契神学校)はルカ1、2章のイエスの出自物語に登場するシメオンとアンナ、ザカリヤとエリサベツの4人の「老人」に注目した。4人について、「共同体的・救済史的理解」を示し、「個人的な救済の確信だけでなく、自分たちが去った後も歴史を通した神の計画は継続していくことの確信」を励ました。

平松契氏(中央聖書神学校)は、ピレモン9節で、パウロが自己紹介する語「年老いた者」を「使節」とも解釈できることから、「年老いた使節」の訳語を提案。高齢者について「犠牲を利用したり、付け込む」ことには注意を払いつつ、「キリストに倣って、人を和解させ、活かし、遣わすために、自らが負債を負ってあげて、群れの模範となること」を勧めた。

2024年07月14日号 07面掲載記事)