《この人この証し》未来見据えた教育を クリスチャンの手で 伊藤直之さん

日本の子どもの精神的幸福度は、先進38か国中37位だと、2020年にユニセフが発表した。同年厚労省は日本の15歳から39歳の自殺率がG7の中でトップを占めると報告。昨年文科省が発表した小中不登校児童数は、過去最多の29万9千人超。この状況に一石を投じたいと、大阪府枚方市のフリースクール事業「STUDY SPACE楽園」代表の伊藤直之さんは、新たな教育を提唱、展開している。確かな手応えの向こうに、さらなるビジョンが見えてきた。【藤原とみこ】

伊藤直之さん

「STUDY SPACE 楽園」代表

 

子どもの「何でだろう」に向き合い、強みを伸ばす

STUDY SPACE楽園は19年に「不登校の子どもたちに笑顔と学びを」という理念を掲げて、子どもが安心できる居場所としてスタートした。不登校支援と、受験指導もできる学習塾事業を両立させた働きに、枚方市も注目。現在、市公認の不登校支援事業として信頼も厚い。

今年4月から新たな取り組みとして、小学生対象に「探究学習」を中心にした「枚方オルタナティブスクール」を開校した。オルタナティブスクールとは従来の教育観にとらわれない新しいタイプの教育を行う学校のこと。同スクールの教育は「探究学習」「自由進度学習」「外遊び」の三つを軸にしている。集団主義の画一的教育ではなく、子どもの「何でだろう」にとことん向き合い、その子の強みを伸ばしていくという教育だ。現在9人の生徒たちが通っている。

従来のフリースクールが提供してきた不登校の子どもたちの居場所という役割から一歩進んだプロジェクトで、学習意欲はあっても学校がつらい、なじめない、行く意味を感じられないという子どもたちのための「不登校児童の早期支援」が目的だ。

学校でいじめや疎外感に耐えることは、子どもたちにとって何の益にも社会勉強にもならない。そんな状況に陥る前に手を差し伸べて「個々に合った学びを提供し、不登校という心の傷を負わずに大学生や大人になれる道を作りたい」と、伊藤さんは考えている。


伊藤さんが生徒を迎える一室

子どもに答え見つける力を 幸福のためよりよい教育を

スタッフは伊藤さんの恩師で「探究学習」の専門家である、京都教育大学名誉教授の村上忠幸さんと、小学校教員経験のある伊藤さん。村上さんのつながりで様々な分野の専門家も協力してくれている。

かつて伊藤さんは村上さんの指導の下、主体的な学習を通して自律と共生を学ぶ「イエナプラン教育」の研修のために、オランダに渡ったことがある。この教育法は同スクールにも反映されているものだ。

オランダは現在、子どもの精神的幸福度世界一の国だ。この国には、1960年に初めてイエナプラン校が設立されて以来、全国に200校以上の同教育を行う小学校があるという。伊藤さんは現地で子どもたちが楽しく学ぶ姿を目の当たりにした。

「ワールドオリエンテーションという授業があって、今日は世界旅行に行こう、と。そのために必要なことを個々が調べて発表するという内容ですが、これを1年間かけてやるのです。子どもたち自身が答えを見つけていく。これは、日本の学校がやっている、答えありきの問題をひたすら詰め込み、試験で測るという教育とは全く違っていました」。

オランダの教育改革は1900年初頭、プロテスタントの団体が立ち上がったことがきっかけだということも知った。「私もクリスチャンの一人。新たな教育の先駆けになれれば」。ゆくゆくは教会でスクールをしたい、という願いもある。

今、1学期が終わって、大きな手応えを感じている。子どもがどんどん元気になって行くのが見えるという。キャンプや文化祭を楽しみ、父母にも喜ばれた。1年から6年まで年齢差はあっても、みんな仲良く活気がある。

伊藤さんは新たに「ゆめのほしアカデミー」という、受験や学習指導要領や教科の枠を取り払った、子どもの社会的自立につながる教育プログラム構想を立ち上げた。生徒50人規模を目指す。スローガンは「自分で飯が食える大人になろう」。

神様の追い風を感じている。4月に4児の父親になった。自身の子供たちのためにも、子どもの幸福度最後進国の日本に、より良い教育を広げて行きたいと意欲を燃やす。

「STUDY SPACE楽園」問い合わせ先:TEL. 080-3835-0086

2024年08月11日号 01面掲載記事)