アガペクリニックの病室で

名古屋市と豊田市に挟まれた日進市にあるアガペクリニックは、「患者に最期まで寄り添える医療機関」を目指している。院長は伊藤志門さん。父の得志男さんが32年前に開業した。

病院のホームページには「医療伝道」と明記されている。得志男さんは、毎週、入院患者と聖書研究会をしていたという。現在では入院患者の状態に合わせ、チャプレンがベッドサイドに訪問し、祈る時間などを持っている。
診療所ながら、17床の入院病床を持つ「有床診療所」である。大規模な病院では、その業務量から、治療行為以外の時間で患者個々人に寄り添うのは難しいこともある。

「『入院や手術をきっかけに人生を考えた』みたいな体験談はよくあったが、最近はすぐに退院させられてしまう。社会から数週間も離れることなく、数日で退院。ゆっくり考える時間はない。社会から離れるのは最期の最期。うちは終末期医療の患者さんが多く、駆け込み寺みたいになっている。亡くなるまでには福音を伝えたい」
教会との関わりも深い。得志男さんは、健康診断を受けられていないなど牧師、宣教師の健康事情を気に掛けることも多かった。今でも、牧師、牧師家族の患者は多い。

 

伊藤さん

病院に隣接するJECA・栄聖書教会とは長年の親交がある。病院ではロビーコンサートやキャロリングを行い、教会ではグリーフケアの一環としてコンサートや、「医療講演」を行った。「本当に伝えたいことは、病気と治療についてだけでなく、『死んだ後の行き先を決めなきゃいけないんじゃないの?』ということ」

患者の家族と話し合う時、特に終末期医療が関わる時や、患者と家族で意志が一致しない時などは、「なぜつらいのか」、「なぜ死んではだめなのか」、「そこまで治療にこだわらなきゃいけない理由は何か」という話をする。「そんなことを言われたのは初めてだ」、「医者なのに死ぬことを考えるのか」と驚かれるが、考え方が変わって楽になったり、次のステップを考えたりできるようになるという。

「誰もがみな死ぬのに、今の医療は死についてあまり語らない。病院の先生が言わないことだが、言わなければいけないことだと思う。イエス様も『よくなりたいか』と問うているのは、『あなたの本当のニーズはなんですか』を問うている。とりあえず治すのではなく、その人の根底でからまっているものを、ほどきたい」

「病、老い、死といった悩みは皆にあるのに、蓋をしてしまっているのが今の世の中。病院も、老いと死にはなかなか言及していない。治療行為だけがクローズアップされ、医療は万能かのように言われるが、そんなことはない。哲学も宗教も必要だと思う」

病院と地域との信頼関係のなかには、教会に似た性質もあるようだ。
「身近で、地域にいて、話を聞いてくれる、相談できるお医者さんを目指している、、、、、

2024年11月03日号 04面掲載記事)