「金沢の地でゆるゆると確かな歩み」

東京で学友だった實方(さねかた)秀太さんが金沢で牧師をしていると聞き、どうしているかと連絡を取ってみた。
特に親しかったというわけではないが、独特のふあーっとした雰囲気の持ち主でよく覚えている。

實方さんが赴任したのは2008年から開拓が始まった「金沢愛(アガペー)キリスト教会」。金沢駅から徒歩圏内という好立地にある。
金沢は人気の街であるが、地方都市の特徴として保守的な部分があることは否めない。「地域との関わりは初め難しかったです。表面には出さないが壁がある感じで町内会に参加はしていても疎遠な雰囲気でした。でも今わたしは副会長に。慣れてきて『この人たちは安心』と思ってくれるまで時間がかかりました」

賛美が盛んな教会

實方さんは新宿の教会で伝道師として働いていたが、金沢の牧師が異動することになり声がかかった。結婚もしたて、子どもも産まれたばかりだったが18年に金沢へ。期間限定として2年半で戻る予定が、継続して今6年目になる。
どうして東京には戻らなかったのですか? と聞くと  「東京は人が多く、忙しさの中で毎日が過ぎていく感じでした。会議や事務的なことに費やす時間も多くて大変でした。それに比べて金沢はゆったりと時間が過ぎる感じがあって、生活もしやすい印象でした。人とのつながりも生まれつつあったし、家族のことを考えても、こちらに残って働きたいと思いました」
教会は小規模で20代、30代、と比較的若い人が多い。YouTubeを見ると實方さん夫妻が歌っている画像がいくつもアップされている。ピアノもギターも弾き、歌も歌っている。こんなに才能があったとは、と驚いた。
大学生のとき、一般の英会話教室で出会ったクリスチャンから教会に誘われた。それまで教会とは何の接点もなかったが、ミッション系の大学に通っていたこともあって抵抗はなかった。
「一回行ってみようという感覚でした。教会は厳かな場所、というイメージを持っていましたが、実際にはワイワイとにぎやかで、あたたかく迎えてくれました。音楽が好きだったので賛美を目当てに通っていたところもあります。またいろいろな大学の学生もいて楽しく過ごしていました」
聖書を学ぶうちに神様がいるかもしれないと思うようになったが「確信を持って洗礼を受けたわけではない」という。卒業後は大学院への進学を希望していたが、道が閉ざされ人生を考え直した。価値ある人生を生きたいと神学校へ進む。その後、教会のインターンを経て2010年伝道師に。親からの反対などもなく、むしろ応援してくれる状況の中、教職者になった。

實方さんは「深く考え込むタイプではない」のだそう。「私はいつも『神様がなんとかしてくれる』と思っていて、ふわふわ生きています。妻は真逆で慎重派。深く考えるタイプです。自分にない視点があって人に対する感性が鋭い。妻を通して自分もそのように感じられたら、と思っています。良いパートナーです」
常に念頭に置いていることがある。
それは「ほっと一息つける教会」。「ここにいたら安心できる、そういう共同体を目指しています」

實方さん一家

そのように考えるようになったのは、母教会での経験だ。東京の教会は変革後、立て直された状態にあるが、以前は常に結果を求められるような厳しい体制だった。そのような過去もあり、上下関係、ヒエラルキー、プレッシャーなどを教会の中で持ってほしくない、と話す。
「教会でつらい気持ちや痛みを感じてほしくない。奉仕なども自分のできる範囲でやってほしい。むしろ平日を大切にしてほしいのです。日曜日は教会で安らかな時間を過ごして、また平日、社会や職場で生きてほしいと考えています」
必然的に礼拝の準備や食事の用意などは實方夫妻でやることが多い。でもそれも無理のない範囲でやっている。
「教会運営はもう少し肩の力を抜いてもいいのではないかと思います。教職者はうつ病にもなりやすいですし。わたしたちのところは無理しない教会。多くの教会とはちょっと違うかもしれませんが、いろいろな教会があっていいのかなと思います。コロナの時、留学生が国に帰ってしまったりしましたが、また戻ってくるだろうとあまり深刻に考えませんでした。妻は違うようでしたが(笑)」

10月にオープンしたサンドイッチカフェ

ふわーっとやってきた、という實方さんだが、これからは少し忙しくなるという。
「これまで週2回くらい教会でやってきたカフェを本格的にやることに。妻の実家は奄美大島でサンドイッチカフェをやっています。そのノウハウを教えてもらいながら準備し、10月に街のカフェとしてオープンしました。キリスト教色は出しませんが、月一くらいで新しい人も馴染(なじ)みやすいようなスタイルの礼拝をしたい、とも考えています」
大きな変化ですね、と言うと例のごとく「あまり深刻に考えていません。なんとかなるかな。妻は大変かもですが」との返事。カフェで自活していくことで経済的にも宣教のためにもなる。
「これまでの経験を通じて自分も変わってきた、ますますゆるゆるとお任せしていきます。でも導かれているようにも思っています。自分たちが疲れない、続けていける形で地道にやっていきたい」
久しぶりの再会であったが、無理せず、しかし確実に歩んでいるではないか、と思わされた。サンドイッチカフェ、金沢に行った際はぜひ寄ってみよう。
【田口祐子】

日本宣教連合会 金沢愛キリスト教会
〒920-0867 石川県金沢市長土塀2-1-22
TEL:076-204-7919 kanazawa.agape.church@gmail.com

2024年11月17日号 01面掲載記事)