本書は祈りについての本である。全編が平易な日本語で読みやすく、信仰の年限に関わらず対象を広く設定しているが、それにも関わらず込められている神学思想には奥行きがある。

著者が神学校で講じた授業のノートが元になっていると語る通り、特に前半部分は祈りを切り口としつつ、三位一体の神論、キリスト論と聖霊論、救いの秩序(Ordo Salutis)、教会論などの神学的テーマもわかりやすく語られており、最後は祈りに帰着するものの、祈りだけを考えている本ではない。また聴許(祈りは聞き届けられるか)に関わる論考は出色であり、大いに慰められた。

著者の本を読むたびに思うが、やさしい書き方であっても、読む者の力量によっては幾らでも深く神学的な思索に入っていけるのではないか。筆者は著者との対話として楽しませていただいた。引用や紹介も豊富にあり、古典的で確かな神学や信仰問答をはじめとして、最近の著述や対話の潮流も掴(つか)んでいる著者がそれらを惜しみなく紹介してくれるのも本書の美点の一つであろう。

本書の後半はトーンが変わって、その切り口は実践的となる。章名も「素直になって」「声を聴きながら」「時を取り分けて」「慌てて、急がず」…と実践のヒントが続いていく。「祈りの射程を広げよう」と呼びかける著者の意図は大いに達成されるのではないだろうか。実践的なガイドラインと共に祈りの例文も巻末に付いており、実際に祈る時の助けとなる。

ホンダマモル氏の手による装丁には、膝をつき、崩れ落ちるようにして手を組んで祈る人がある。著者はこの絵に感動し、自分自身を重ねたという。祈りとは、私を愛し私のために命をお捨てになって今も呻(うめ)いておられるお方との対話であり、私はそこにおいて見出され、私も神を見出している。祈りは決して義務ではなく、恵みであり救いであり福音である。本書はそのような祈りの恵みを著者が実存をかけて語ってくれた良書である。
評・飯田岳=東京フリー・メソジスト教団南大沢チャペル

 

『三位一体の神と語らう 祈りの作法』朝岡勝著、いのちのことば社 1,760円税込、B6判

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