映画「マジカル・ガール」--“洋和折衷”な趣きのブラックユーモアなスペイン映画
日本映画なら“和洋折衷”なのだろうが、スペイン人監督による日本的カルチャーを取り入れた先の読めないスペイン映画となると“洋和折衷”な趣きの作品といえる。しかもストーリーは解決を求めていない展開で、ブラックユーモア。論理的な解答を示さない“情”に流されていく感性も日本的か。言いようのない可笑しさを醸し出している。
【あらすじ】
12歳の少女アリシア(ルシア・ポジャン)は、日本のアニメ「魔法少女ユキコ」(監督による架空のアニメ作品)の大ファン。部屋の鏡の前で「魔法少女ユキコ」の主題歌「春はSA-RA SA-RA」を踊っていて倒れ、病院に担ぎ込まれた。父親のルイス(ルイス・ベルメホ)は、アリシアの余命がわずかなことを告げられる。アリシアが退院した後、彼女の願い事ノートを見つけたルイス。書かれている願い事で適えてやれそうなのは、「魔法少女ユキコのコスチューム」を買い与えることくらい。だが、失業中のルイスには日本円で90万円もするセットは買えない。
あきらめきれないルイスは、宝石店のショーウインドウを割って盗もうとした時、上の階から汚物がこぼれてきた。精神科医の妻バルバラ(バルバラ・レニー)が、薬を飲みすぎて気持ち悪くなり窓から吐き出すとルイスにかかってしまった。ルイスを呼び止め、汚れた衣服を選択するバルバラ。夫が不在で精神的に不安定だったことから、ルイスと一夜を過ごしてしまう。
翌朝、ルイスは「7千ユーロ要る。用意しないと昨夜のことを旦那にバラすぞ」とバルバラに脅迫電話をかけてきた。バルバラは、金を工面するためかつての仕事仲間アダ(エリサベト・ヘラベルト)を訪ね、サド・マゾの秘密クラブでの裏の仕事を一日だけ請け負った。バルバラから金を受け取ったルイスは、「魔法少女ユキコ」のコスチュームを取り寄せアリシアに贈る。だが、なにか物足りなそうなアリシア。魔法のステッキを買い忘れた。ルイスは「一度きり」という約束を破ってバルバラを脅迫し、2万ユーロも要求した。仕方なく、再びアダのところへ行くベルバラ。
かつてバルバラの教師だったダミアン(ホセ・サクリスタン)が、刑期を終え出所し、新たな人生へ再出発しようとしていた。だが、買い物から帰るとアパートのドアの前に、傷だらけの姿でバルバラが倒れていた。バルバラは、ルイスに金を渡すのをダミアンに頼むために来て倒れた。病院でダミアンに事情を話すバルバラは、「あなたは、今も私の守護天使よ」とささやく…。
【見どころ・エピソード】
アニメのように誰にでも変身できる魔法の世界は、存在しない。だが、愛情のように思えても、何か己の要望に引き込まれ、罪のスパイラルにはまり込んでいく人生の交差は思いがけないところにある。暗闇の世界へと歩んでいく人生の悲劇を見せられながら、不安と思わぬ展開に面白みを感じさせられるのは、逃れようのない情況を生きよう、分かろうとする人間の“情”をうまく織り込んでいる物語だからかもしれない。
日本が大好きというベルムト監督が、日本のアニメを重要なファクターに設定し、長山洋子のデビュー曲「春はSA-RA SA-RA」をそのまま挿入曲に使い、美輪明宏の「黒蜥蜴の唄」のカヴァーを流して不気味な恐怖を演出している。その日本テイストは、混とんとした展開とともに“日本的”という意味合いを考えさせてくれる興味深い作品だ。 【遠山清一】
監督:カルロス・ベルムト 2014年/スペイン/127分/スクリーン=シネスコ/原題:Magical Girl 配給:ビターズ・エンド 2016年3月12日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GRADEN CINEMAほか全国順次ロードショー。
公式サイト http://bitters.co.jp/magicalgirl/
Facebook https://www.facebook.com/magicalgirl.movie/
*AWARDS*
第62回サン・セバスチャン国際映画祭グランプリ・監督賞受賞。第29回ゴヤ賞(スペイン・アカデミー賞)主演女優賞(バルバラ・レニー)受賞。第2回フェロス賞脚本賞・主演女優賞・助演男優賞(ホセ・サクリスタン)受賞。スペイン映画評論家協会賞主演女優賞受賞。ホセ・マリア・フォルケ賞主演女優賞受賞。フォト・グラマ・デ・プラダ賞主演女優賞受賞。