(C)2016「Fake」製作委員会
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Fake(フェイク)とは、「偽造する。みせかける。いんちき。虚報」などを意味する。2014年2月に「週刊文春」掲載された記事「全聾の作曲家はペテン師だった!ゴーストライター懺悔実名告白」をきっかけに大バッシングの渦に巻き込まれた作曲家・佐村河内 守(さむらごうち・まもる)氏の事件後を追ったドキュメンタリー。ほんとうに全聾なのか。ほんとうに作曲できるのか。事件直後、一度記者会見に出席した後はいっさい人前に出ななくなった佐村河内氏と妻かおりさんに率直な質問をぶつけ、現在の生活と心情を浮き彫りにしていく。偽善者、社会の敵と見做された人は悲惨だ。その厳しい状況に追い込んでいくマスコミとは何なのだろうか。ほんとうに、マスコミ報道、テレビの番組は真実を伝えているのだろうか。流される大量の情報のなかで、善と悪、真と偽を冷静に見つめる間もなくある一定の方向へとまとまっていく印象と結論がなんとも空恐ろしい。

【あらすじ】
佐村河内氏の自宅マンション。カーテンが閉め切られた薄暗い照明のリビングに通された森監督。長髪の佐村河内氏はサングラスをかけている。強い明るさは目に影響しサングラスは外せない。“全聾の作曲家”“現代のベートーベン”と評され脚光を浴びていたが、ゴーストライター事件騒動が起こる3年ほど前から少し聞こえるようになっていたという。その詳細な診断書を示しながら感音性難聴の状態を説明する佐村河内氏。だが、人の声は沈み込むようにボワーンとして聞こえるため何をしゃべっているのかは聞き取れない。そのため、妻かおりさんの唇の動きと手話通訳は欠かせない。

ゴーストライター騒動は、2014年を象徴するトピックスになり佐村河内氏への大バッシングが起こった。妻も家族も後ろ指をさされ知人友人の多くが離れていった。その騒動のなか、あるテレビ曲の番組制作者たちが来訪。年末番組に出演し、自由に弁明してほしいとの趣旨。だが、司会はお笑いタレントのバラエティ番組だ。マスコミに叩き潰され続けてきた不信感はぬぐえず丁寧に辞退する。案の定、番組には話題の人・新垣氏が出演し、笑いのネタ扱いの演出になっていた。佐村河内氏のマスコミ不信は深まる。

「週刊文春」に新垣隆氏の実名告白のスクープ記事を書いた神山典士(こうやま のりお)氏は、その年の大宅壮一ノンフィクション賞(雑誌部門)を受賞した。プレゼンターは森監督だが、神山氏は授賞式を欠席し代理人が受け取った。新垣氏も神山氏も森監督の取材申し込みには応えなかった。

佐村河内氏(右)を取材する森監督 (C)2016「Fake」製作委員会
佐村河内氏(右)を取材する森監督 (C)2016「Fake」製作委員会

“全聾の作曲家”として海外でも知られていた佐村河内氏は、外国メディアの取材を受け入れた。彼らの取材姿勢は真摯で、質問は実証的だ。「新垣さんが作曲した音源はいくつもあるが、佐村河内さん自身が作曲した原案の音源はありますか?」と迫る。自宅マンションには、鍵盤楽器関係も片付けられている。佐村河内氏は「原案の音源はもう無い」と正直に答える…。

【みどころ・エピソード】
オウム真理教(現アーレフ)の分散後の活動を追ったドキュメンタリー「A2」(2002年公開)以後、4人の監督共作の「311」(2012年公開)を挟んで15年ぶりの新作公開。森監督は、“カメラに向かって取材対象者が語るときある種の誇張があり、編集作業を経て作者の主観が入るのを防げないのだからドキュメンタリーは一種の嘘である”という趣旨の発言を公にしている。Fakeを仕掛けた“ペテン師”として突然糾弾された佐村河内氏と、反論する機会をバラエティ化して提供しようとする日本のマスコミと視聴者の思い込み。「作曲してきた」と主張する佐村河内氏の心情に寄り添う展開が、どこか勧善懲悪のフィルターにかけて佐村河内氏を追い込んでいたかのように思えてくる。それが外国メディアの取材から新たな展開へと転じていく。

一方、森監督は取材当初に「僕は、佐村河内さんの怒りではなく、悲しみを撮りたい」と取材意図を説明している。“怒り”は事の正邪に目を向けがちだが、“悲しみ”事柄の受容の在り様を窺わせられる。その悲しみを傍らで見つめてきた妻かおりさん立ち居振る舞いにも、カメラは向けられる。人は一人では生きていけない。傍らで忍耐し支え続けている人の存在は大きい。佐村河内夫妻に「(相手を)愛しているの?」と問う森監督。即答しない二人。だが、カメラは二人の行動をとおして、その絆の在り様をみごとに表出させる。 【遠山清一】

監督:森達也 2016年/日本/109分/ドキュメンタリー/HD/16:9/ 配給:東風 2016年6月4日(土)より東京/渋谷ユーロスペースにてロードショーほか全国順次公開。
公式サイト http://www.fakemovie.jp
Facebook https://www.facebook.com/fakemovie2016/

*Topics*
【映画「FAKE」公開記念 森達也監督作品「A2 完全版」上映決定!】
映画「FAKE」の公開を記念して森達也監督「A2 完全版」が、ユーロスペースにて上映される。
ドキュメンタリー「A2」は、オウム真理教(現アーレフ)の広報副部長をと他のオウム信者たちにカメラを向け、オウム事件の本質に迫った森達也の代表作「A」の続編。教団施設を追われ日本各地にその拠点を分散し活動している出家信者達とと地元住民の対立と融和、右翼との交流など、社会の軋轢がより先鋭的に描かれる。
今回、森達也監督15年ぶりの新作「FAKE」公開に合わせ、2002年の劇場公開時カットされた幻のカットを加えた完全版を上映。
<上映スケジュール>
◆日時:6月18日(土)~24日(金) 連日21:00~
7月9日(土)~15(金) 連日21:00~
◆劇場:ユーロスペース(渋谷区円山町1-5 KINOHAUS 3F)
http://www.eurospace.co.jp
◆料金:当日一般1,500円/学生1,300円/シニア・会員1,200円
※「FAKE」半券提示で、当日一般料金より300円引き、学生料金より100円引き。