前天皇代替わり時期に国会参考人   西川重則さんに聞く

聖書と憲法の習熟が戦責、宗教性考える鍵

 「昭和」から「平成」の代替わり時期もまた、即位の礼、大嘗祭の宗教性、信教の自由が問われた。それは「平成」から「令和」時期と比べられない規模での議論が交わされた。1990年5月に国会(参議院予算委員会)で参考人として呼ばれた西川重則さん(「平和遺族会全国連絡会」代表)に、当時の様子と、現代の課題を聞いた。【高橋良知

写真=西川さん。国立市の自宅で

 

 即位・大嘗祭の宗教性 を批判

写真=クリスチャン新聞1990年6月3日号記事

 90年の国会では、政府側は、即位の礼・大嘗祭について、「宗教上の儀式と見られる色彩がある」ことは認めつつ、「伝統的な皇位継承儀式の一環として公的性格をもつ」という見解を繰り返していた。

 これに対して西川さんは、政府見解が作成された経緯が拙速で民主主義ルールが不足している、天皇の公的行為に憲法的根拠がないことを挙げ、「46年の戦後改正憲法国会での皇室典範制定過程で、大嘗祭の宗教性がはっきり認められ、条項に入らなかった」と指摘した。この戦後の処置が「アジアへの加害の責任を反省したもの」と意義を述べると、与党席から怒号が飛んだ(クリスチャン新聞1990年6月3日号記事から要約)。

 「私自身は天皇制はいらないという立場だ。国会に参考人として呼ばれたとき、周囲からは『反対を主張したら、右翼に殺される』と言われたが、殺されてもかまわないと私は言った。天皇儀式と改憲国会は重なる。はっきりとした態度で闘っていくべき」と当時を振り返り語った。

 戦没遺族として思う天皇の戦争責任

 天皇の戦争責任については戦中の勅語や言動、ポツダム宣言受諾の判断の遅れなど、様々な角度で言われている。「たとえば32年1月8日に出された満州事変についての関東軍への勅語では、満州事変後の出兵を『自衛ノ必要上』と認めた。自衛の名のもとに、侵略が行われたのです」

 西川さん自身、兄を戦地ビルマで失った遺族としての思いがある。「終戦を迎え、兄が帰ってくるものと喜んでいたが、ビルマはまだ混乱状態で、兄たちは、過酷な状況で南へ逃げ、その途中で病死しました」。兄の死の知らせを聞き、西川さんは母とともに泣き崩れたという。

 平成の天皇の姿勢は評価する。「幼いときからアメリカ人の家庭教師のもとで学び、よい影響を受けた。特に言葉の使い方がしっかりしています」

 一方、問題にするのは、大手メディアでも使われる天皇の「慰霊の旅」だ。「天皇自身は『追悼』という言葉を使っていた。慰霊は死者の魂を慰めることになり、宗教的な意味が生じる。そのような役割を、人間である天皇は果たせないはずです」

 2020年改憲問題への危機感

 今、危機感を募らせているのは、安倍晋三首相が明言した2020年の改憲問題だ。「憲法9条への自衛隊の明記を主張し、周辺諸外国を敵視する姿勢がある。たとえば北朝鮮のことを言うが、日本が戦中戦後、朝鮮半島に何をしたかをまず反省しないといけない。北朝鮮が生まれた背景にも、日本が悪い方向へ位置付けた問題がある」と述べた。「安倍政権が長期化しているが、それを許している自民党の背景を知らないといけない。1955年の結党以来、改憲を党是にしてきた。今、自民党本部ビルには、大きな字で、『憲法改正推進本部』と書かれています」

 99年の周辺事態法、国旗・国歌法成立のころから20年にわたり国会傍聴を続ける。2015年9月の安保法成立時には、深夜まで国会で待機していた。

  「まず、憲法に習熟すべき。99条には、公務員、国会議員の憲法尊重・擁護義務が記されている。憲法前文、主権は有権者にある。憲法の『改悪』はあらゆる方法で阻止したい」

 憲法護持や政教分離、平和など10以上の団体、運動に関わっている。5月1日の集会でもピーアールの壇上に呼ばれた。

 「天皇を利用して、改憲を阻止しようとする考えの人たちもいる。改憲反対といっても立場は様々。キリスト者として関わる姿勢をはっきり持たなくてはいけない」と言う。

 土台として聖書、礼拝、祈りを重視

 キリスト者として西川さんが重視するのは、「平和」の考え方だ。「平和と言っても様々な平和がある。天皇のための平和、国の平和、活用範囲は広い。私が大切にしたいのはマタイ5章9節。平和はつくり出すものだ。そして平和をつくり出す人たちは『神の子と呼ばれる』。この土台に立って、憲法前文や9条の理解を深めたい。キリスト者の役割は非常に大きい」

 キリスト者として平和運動にかかわる上で大事にしているのは、礼拝や祈祷会、聖書の学びだ。「出席している改革派・東京教会で『名誉長老』という名をいただいた。朝礼拝、夕礼拝、祈祷会の出席を欠かさない。多くの教会で祈り会の出席者が減っているようだが、教会は祈り会で成長してきました」。「忙しいは理由にならない。忙しさを克服してぜひ出席して欲しい」と勧めた。

 ほかにも毎年改革派神学校で主催する神学セミナーも毎回出席してきた。今年のイースター礼拝には親子3人を礼拝に誘った。

 継続した学びも大切にする。出版社時代は、キング牧師を研究し、米国でキング牧師や黒人教会のリーダーたちを訪問した経験もある。現在もギリシア語、ヘブライ語を継続して学んでいる。

 教会の祈祷会がない年末の時期には、日本軍による爆撃について賠償を訴えている中国・重慶に行き、被害者と交流を重ねた。ほかにも韓国、米国、ドイツ、フランスなどを訪ね、講演活動をしてきた。「平和をつくり出すためには国際連帯が重要」と述べた。