志学会主催 柳沢正史氏「『眠り』―その謎に挑む」テーマで講演 睡眠不足で効率低下 GDP3%ロス

 クリスチャンの若手研究者を励ます志学会主催の第31回公開講演会が5月27日、東京・千代田区のお茶の水クリスチャン・センターで行われた。テーマは「『眠り』―その謎に挑む」で、講師は睡眠に関する研究者である柳沢正史氏。アメリカでの24年にわたる研究後、2012年より、母校、筑波大学に設けられた国際統合睡眠医科学研究機構の機構長・教授を務めている。現在、同機構の10の研究室には、様々な国籍の150人の研究者が所属しており、睡眠に関する世界的な研究拠点として注目されている。

講演では、現在の睡眠に関する研究の概要を一般向けに解説。冒頭で、「生物にはなぜ睡眠が必要なのか」「長く起きていると、なぜ眠くなるのか」については解明されておらず、「現代の神経科学最大のブラックボックス」であることを紹介。一般に言われている、「疲れた脳が休むため」という理由は間違いで、脳は寝ている間も活発に動いているという。その点では、心臓や肝臓などと同じなのである。
通常、大人は1日に6~8時間の睡眠が必要とされるという。ちなみに、大型草食獣は3~4時間で、なぜ短いかの理由は分かっていないが、肉食獣に襲われるリスクを低めるためではないかと推測されている。
世界の主要都市に住む人の睡眠時間の調査では、東京は最も睡眠不足で5時間28分。日本は他国に比べて睡眠時間が短く、睡眠不足による効率の低下によってGDPの3%をロスしているとの試算もあるという。
昼間に眠気を感じる人は、「睡眠不足」「不眠症」「睡眠時無呼吸」に原因があるとのこと。特に3つ目の「睡眠時無呼吸」は、軽症を含めると男性の3人に1人に見られ、その10人に1人は脳梗塞などになる危険があり治療が必要だという。
睡眠不足の子どもは、脳の海馬の容積が小さいとの報告も。ちなみに、11歳では9時間30分が必要だという。また、思春期から20歳代の人は、体内時計が平均2時間遅れ、より夜型になる。なので、この世代が朝起きられないのは生物学的に当然で、学校の始業時間を遅らせることで成績が上がるとの研究結果もあるという。ちなみに、年齢の上昇とともに体内時計の遅れはなくなり、睡眠が浅くなっていくそうだ。
柳沢氏は、現在、日本バプテスト連盟筑波バプテスト教会に所属し、フルート演奏で賛美も行っている。自らを有神論的進化論者とし、「科学は、創造の御手の業を読み解くために人間に与えられた方法論」と話した。
座右の銘は「真実は仮説より奇なり」。柳沢氏が睡眠の研究に入ったのは、脳の中にあるオレキシンという物質に着目したからだった。当初は食欲の研究のためだったが、研究の過程で睡眠に関係することがわかったのである。「仮説は、人の限界の中で作られるが、神はもっとでかい」とも。オレキシンは脳の覚醒物質であるため、突然眠ってしまう病気であるナルコレプシーなどの治療薬として期待されている。
会場には、クリスチャンの研究者を中心に、講演テーマに関心をもった高校生から一般の社会人までが集まり、会場が閉じられるまで交流が続いていた。(レポート・砂原俊幸=いのちのことば社月刊誌「百万人の福音」編集長)