敵対心や暴力が起こる背後には、人間の悪、罪、本性がある。新訳で刊行された古典的名作人間の本性:キリスト教的人間解釈』(ラインホールド・ニーバー著、髙橋義文・柳田洋夫訳、聖学院大学出版会、4千70円税込、A5)は人間の本性、罪や悪の問題を個人から社会・政治まで密接にかかわるものとして論じる。

 前半では、近代までの様々な人間観、ギリシア的な知性主義、心身二元論的な人間観から、観念論的合理主義、自然主義的合理主義、ロマン主義的合理主義などを検証する。近代の楽観主義は、人間の罪性への認識が欠落していた。

 これに対して啓示の宗教は、「人間の自由と有限性とを正しく認めることができ、また、人間のうちにある悪の性質を理解できる」(159頁)。啓示は、人格的個人的なものと社会的歴史的ものがあり、それぞれ個人と集団に対して自らを神とする傲慢を戒める。

 後半では、罪、良心について考察する。「人間は自分の置かれた目前の自然の状況以上のことを知って」(217頁)いるという意味で、超越性、自由がある。だが、完全に知り得ない。それにもかかわらず「有限的生の限界」を超える知を獲得しているかのように偽装するとき、傲慢の罪が現れる。

 さらにニーバーは集団の傲慢に目を向ける。集団の傲慢や国家の自己神化は個人に「無制約的忠誠を要求」(245頁)し、個人の側から見ても、「自己拡張の可能性」(246頁)を誘発する。とりわけ集団的傲慢は、個人的傲慢よりも「多くの不正や紛争の源泉」を孕(はら)む。

 権力の側にも、それに対抗する側にも人間として平等に罪があることが前提だ(罪の平等)。しかしもし、権力の側に誤りがあれば、その罪責は、権力側が一層厳しく問われることになる(罪責の不平等)。

 本書ではさらに自由と何か、良心とは何か幅広い視野で考えていけるだろう。

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