写真=1日1回の運動のための外出は可能。夕方になると在宅ワークを終えたと思われる人達が、近所の公園にジョギングや散歩にやってくる

 新型コロナウイルス感染が広がるイギリスの状況を、ロンドン在住のジャーナリスト、宮田華子さんにレポートしてもらった。

 イギリスで「新型コロナウイルスによる初の死亡者が確認された」と報道されたのは3月5日だった。当時、人々は怖がりつつもいつも通りの日々の営みを続けていたのだが、日を追うごとに感染者と死亡者数が倍増していった。そしていよいよ“国レベル”で新型コロナウイルス対策へと動き出したのは、3月12日からである。
この日、イギリスは「6割が感染することで集団免疫がつき、終息に向かう」という驚きの策を発表した。しかしこの策は専門家からの大きな批判を浴び、あっという間に方向転換されることとなった。この変わり身の早さは良くも悪くも大変イギリス的なのだが、3月16日には他の欧州国同様の行動制限による感染拡大の抑制策への変更を発表した。
 ここからの動きは早かったので、下記時系列で簡単に記してみる。

 15日:70歳以上の人を含めた脆弱な身体・環境下の人に対し、長期の自主隔離要請。

 16日:行動制限による感染拡大抑制策を発表。

 17日:各企業は可能な限り在宅ワークを導入開始。展覧会やイベントが続々中止に。

 20日:全英の学校が閉鎖。

 23日:事実上のロックダウン宣言(最低3週間継続)。

 そして現在に至るまで、ロックダウン下の行動制限の日々が続いている。
 4月13日のデータによると、感染者・死者数は以下の通りだ。感染者数(合計)8万8千621人、死亡者(合計)1万1千329人、新規感染者数4千342人/日、死亡者数717人/日。
 死亡者数/日は最多だった3日前の980人から700人台に落ち、新規患者数/日も前日の5千人台から4千人台に落ちていることから、行動制限策が正しい方向へと向かっているのでは? と考えられている。しかしロックダウンの解除やピーク予想はまだ発表されていない。
 まだまだ先は見えないが、これまでにイギリスで見た印象的な出来事は多々ある。そのいくつかを挙げてみたい。

補償と自粛はセット

 初動での「方向転換劇」はあったものの、その後の毎日会見での進捗報告は明解で透明性がある。また早々に示したガイドラインや支援・補償が分かりやすく、政府はあっという間に信頼を回復したのは見事だった。
 イギリスのコロナ対策のスローガンは「STAY HOME(家にいよう)、PROTECT NHS(医療を守ろう)、SAVE LIVES(命を救おう)」である。家にいることで医療崩壊を防ぎ、より多くの人命を守れることを徹底的に訴え続けている。
 個人補償やビジネス支援を早々に打ち出したことが政府への信頼と「行動制限を守り続ける」ことにつながっている。個人(会社員およびフリーランスの両方)に対し、政府は8割の収入補償(最高2千500ポンド=約33万円まで)を決め、失業者や低所得者への手当も拡大した。手厚い補償だが、失業者や自宅待機者が急激に増加してるため十分とは言えない。現在日本でも補償が問題となっているが、イギリスから見えることは「補償があっても大変」ということだ。補償があってもこんなに大変なのに、補償がなかったら一体どうなってしまうのだろうか? 不安を抱えつつも補償があるからこそ、「自宅に留まろう」という選択をしている人が多いのである。

ジョンソン首相の入院

 人々が「家籠り」生活にも慣れてきたところに飛び込んできたのが4月5日のジョンソン首相入院のニュースだった(12日に退院)。首相はこの10日前に検査の結果陽性と分かり、自主隔離しつつ政務を行っていたが、入院の翌日にはICUで治療を受けていることが判明した。
 私の周りにも数人「たぶん感染した」という人はいるので、感染そのものには皆驚かない。そしてほとんどの人が早い段階で回復している。そんな中、ほぼ毎日メディアで動いている姿を目にしていた首相のICUへの搬送はリアルな感覚で受け止められた。「ウイルスは、その人の地位や権威を差別せずに襲い掛かる」―― 改めて新型コロナウイルスの恐ろしさを人々に鮮烈に伝えることになった。

教会内外で助け合い

 3月第2週末までは、私が通う日本語礼拝「ウィンブルドン賛美の群れ」でも礼拝や集会が行われていた。今、その頃のことをとても遠くに感じられる。
ロックダウン後はイギリス全土で集会が禁止となったため、現在は全教会が閉鎖。しかし、多くの教会がオンラインでの礼拝を行っている。そしてどの教会も外出できない信徒や老人の買い物を担い、連絡を取り合うなどして教会ならではのネットワーク力を発揮している。
 教会以外でも人間の優しさと助け合いの心を日々痛感している。毎週木曜日の20時にNHS(国民保健サービス)スタッフへの感謝の拍手が全土で行われている。また危険を冒して前線で働いてくれているスーパー、商店、薬局、宅配、警察、公共交通機関スタッフ等「キーワーカー」と呼ばれる人への感謝の気持ちを、皆が躊躇せず発するようになった。保健省が自宅隔離中の人に薬や食料を届けるボランティアを募集したところ、募集数を大幅に超える70万人もの人が登録。SNSを利用したご近所同士の助け合いも広まり、困ったときは「ヘルプ!」と叫びやすくなっているのは大きな安心だ。
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 私たちクリスチャンは、こうした難局に際し神のことを考える。御心は分からない。でも神様は私たちに問題を乗り越えるための知恵を必ずさずけてくださるはずだ。そしてこんな時だからこそ、神の限りない愛を行動で示すことができるクリスチャンでありたい。そんなことを思いつつ、今この時期だからできることを考え、静かに過ごしている。


写真=現在感染拡大防止のため、どのスーパーも入場人数を制限している。外で待っている間も、人との距離を2メートル保つ