5月31日号紙面:【連載】「本屋」は人を自由にする 「本屋」の存在意義⑦
【書店】本を販売する小売店
【本屋】本を売る人たち
セレクト書店、独立書店が盛んな韓国、台湾だが、日本の本屋へのまなざしは熱い。石橋毅史さんの『「本屋」は死なない』(新潮社、2011)、下北沢で本屋B&Bを開いた内沼晋太郎さんの『本の逆襲』(朝日出版社、2013)、が韓国語、中国語に翻訳。そのつながりで内沼さんは、17年からアジアの本屋が集まるAsia Book Marketを開催。『本の未来を探す旅 ソウル』(朝日出版社、2017、以下『ソウル』)、『本の未来を探す旅 台北』(2018、以下『台北』)を出版。石橋さんは『本屋がアジアをつなぐ 自由を支える者たち』(ころから、2019、以下『アジア』)を出版した。
『ソウル』では、セレクト書店が増えた背景として「Thanks Books」店主イ・ギソプさんは、「急激な高度経済成長を通じて画一化された文化」から「経験の質を重視する社会」への変化を挙げ、「街の本屋それぞれの力は弱いけれど、その多様性が合わされば大きな力を生み出す」と述べた。「ブック・ノマド」店主ユン・ドンヒさんは「大学を卒業して企業に就職し、家庭を持ち安定した生活を送るという路線」が見いだせない中、「みな自分で小さな仕事を探さなければならない」という若者たちを取り巻く社会背景を語った。
『ソウル』ではあまり表に出ないが、この時期韓国は「ロウソク革命」で揺れていた。本屋の政治的、社会的な意識について、『アジア』では「ソウルのオシャレなブックカフェで過ごしているだけではそうした空気を感じ取れないだろう。それでも、この問題をまったく意識せずに本屋をやっている人はいないのではないか」と言う。、、、、、、
「空間」でなく「人」「媒介者」
コロナ禍を経て、ますます世界は、オンライン活動に移行せざるを得ない。その中で、本屋の価値は何だったのか。どんな可能性があったのか。本屋がもっていた役割を再確認して次世代に継承することは急務だろう。
「本屋は、人を自由にする。本を介して、その町に暮らす人びとの自由を支える」(『アジア』)と言う。排外主義、自国中心主義が世界で蔓延(まんえん)し、ネット、SNSでの応酬が激しくなっている。こんな時だからこそ、思慮をもって本棚をつくること、その本棚の前で、多様な世界観、思想、表現に向き合うことが重要かもしれない。東アジアで本屋のネットワークがゆるやかに築かれている。キリスト教界でも、東アジアの宣教協力、交流が青年層を中心に活発化してる。本屋、出版、メディアが協力すれば、この関係を次の段階へ押し上げるだろう。
内沼さんは、『本の逆襲』で「『書店』が減っても『本屋』は増える」と語る。「『本屋』は『空間』ではなく『人』であり『媒介者』のことである」とも。本屋博でも見たが、既存の「書店」の業態、空間にとらわれない、様々な挑戦が今後もなされるだろう。図書館のような非営利なものも含む。
教会も聖書という「本」を媒介する人々の集まりだ。そこから様々なキリスト教出版、文書伝道の働きが生まれた。キリスト教書店はその働きの窓口となる。様々な「本屋」の姿、ビジョンを紹介してきたが、現実は厳しい。コロナ禍を経て一層、キリスト教書店はその在り方が問われている。次回以降はキリスト教書店の現状と課題を見ていく。(つづく)【高橋良知】