2015年に起きた黒人教会銃乱射事件は、黒人差別問題に加え、もう一つの米国社会の病理「銃問題」ともかかわる。この事件とその後を地元紙記者が克明にまとめた『それでもあなたを「赦す」と言う チャールストン教会銃乱射事件の波紋』(ジェニファー・ベリー・ホーズ著、仁木めぐみ訳、亜紀書房、2千750円税込、四六判)が翻訳された。
事件が起きたのは、南北戦争、公民権運動にも由緒がある教会。白人至上主義を背景にした白人青年が、教職者、信徒9人を銃殺した。だが犯人逮捕後、被害者遺族は口々に「わたしはあなたを赦す」と語り、葬儀の弔辞で当時の大統領オバマ氏が「アメイジング・グレイス」を歌い、その映像に全世界が泣いた。

ここまでは日本でも知られる事件のハイライトだが、それらは本書の内容の3分の1に過ぎない。
「赦す」と語った遺族の悩みは続いた。憎しみに打ちひしがれた人もいた。牧師は、マスコミ、政府、支援者の対応、教区の政治に追われ、牧会ケアもままならない。そのような葛藤の現実の中で、聖書に問う信仰者たちの姿があった。また犯人の生い立ちや思想に触れ、今年の黒人暴行死事件につながる闇の深さが浮き彫りになる。


米国社会のみならず現代社会の病理を思わせるのが『新使徒運動はなぜ危険か 神に成り代わり大統領にも指示する「支配神学」とは?』(ウィリアム・ウッド著、いのちのことば社、770円税込、A5判)だ。 神から与えられた「権威」によって病気や災害を従わせようとする「支配神学」と、その影響下の「新使徒運動」を警戒する。コロナ禍においては、この思想によって衛生管理がおろそかにされ、人の生死を分ける恐れがある。同様の精神構造が現在の米国大統領周辺にも見られ、実際に新使徒運動の指導者たちと政権との交流がある。本書は何よりも信仰の土台を問う。


権威の問題はハラスメントに表れる。『聖なる教会を目ざして ハラスメントを起こさないためにはどうしたらよいか』(イムマヌエル綜合伝道団人権委員会著、いのちのことば社、550円税込、A5判)では、ハラスメントを起こしやすい「自己愛」や誘惑といった要因を解説し、予防や対応策を示す。


米国の聖書博物館が所蔵する「死海文書」とされた断片資料がすべて偽物であることが3月に判明した。ネット上ではこれを嘲笑する向きもあるが、以前から指摘されていた「死海文書」売買にまつわる精巧な偽造品らしい。「死海文書」は、聖書のリアリティーを補強して信仰を励ます面もあるが、スキャンダルや陰謀論の的にもされてきた。『「死海文書」物語 どのように発見され、読まれてきたか』(J・J・コリンズ著、山吉智久訳、教文館、2千640円税込、四六判)は厳正な学者の視点で「死海文書」の各議論を概説。日本でも「死海文書」全書の翻訳が進行中だという。

 

[レビュー1]多様性と幅を許容する聖書解釈―新たな議論の糸口に 『聖書を解釈するということ』評・山﨑ランサム和彦2020年8月29日
[レビュー3]『今、礼拝を考える』『教会でも、がん哲学外来カフェを始めよう』『世界社会の宗教的コミュニケーション』2020年7月24日

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